秋葉原ヲタク白書34 8人いる!
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第34話です。
今回は、アキバで狙撃事件が発生、現場に血染めのカチューシャを残し、メイド長が失踪します。
さらに、機密解除となった政府の文書にメイド長の名があったコトから、彼女をめぐる国際的な争奪戦が…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 消える人々
アキバの黒い吉野家を知ってるか?
黒が基調のスタイリッシュな内装。
電源完備のお一人様席が人気だね。
「前に何処かで会ってますか?」
「え?お客様、ナンパですか?営業中に困ります」
「昼はドーレ。夜は黒い吉野家。いつも僕が逝く先々でバイトしてるょね?」
すると、緑ベレーの吉野家ガールは微笑む。
「わかる?実は…こうしたかったのょ」
振り向く彼の膝の上に跨り正面からキス。大丈夫。直ぐに眠くなるから。身を任せて。私の瞳は綺麗な茶色なのょ。この目を見て…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目で見る天体望遠鏡も、レーダーみたいな電波望遠鏡も電磁波を捉えるための装置だ。
違うのは電磁波の波長で、可視光線より長い波長の電磁波を"見る"のが電波望遠鏡。
このため、電波望遠鏡では観測で得たデータを特殊な計算で画像に変換する必要がある。
さらには、データから全体像を描くにはどんな計算が適しているかも考える必要がある。
ブラック吉野家モデリング。
限られたデータから足りないデータを数理的かつ定量的に補って画像を作り出す技術だ。
アキバのスタートアップによって開発されたこの技術は、よく探偵の仕事に準えられる。
探偵は非常に限られた情報の中から自分の知性に従って最も合理的な可能性を導き出す。
通常"推理"と呼ばれる作業を行うアルゴリズム、それがブラック吉野家モデリングだ。
このアルゴリズムを書き上げた研究開発会社の主任プログラマーがアキバの闇に消える…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
暗闇の中でスマホが鳴る。
「ミユリさんのスマホです」
「話せますか?」
「もちろん…裸でよければ」←
ミユリさんに代わる。
暫くして彼女は逝う。
「興味がないわ。さよなら」
「電話セールス?」
「こんな真夜中に。規制すべきょ」
ところが、既に真っ昼間で大騒ぎ!
電話セールスの方が真っ当とはねw
「わああっ!もうお昼だっ!」
「ええっ?ウソ!」
「ウソであってくれぇ!」
僕は、慌てて背広を着てホテルを飛び出し地下鉄に飛び乗るw
ミユリさんは、慌ててメイド服を着てメイド神輿の打合せだ←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の御屋敷。
メイド長のミユリさん(僕の推しw)はメイド神輿の打合せが長引いてるとかで不在。
ヘルプのつぼみんが「エヘン!私が臨時のメイド長」と仕切って中々の盛り上がり。
「ウチのTOの浮気相手が@(老舗の御屋敷)のメイドでなくて、私の妹で良かったわ。姉妹ならあと4人もいるけどTOは1人しかいないもの。ホント、良い仕事をしてくれたわ。テリィ、相棒さんによろしくね」
「え?相棒って?」
「あ、テリィ様のお手伝いをするって逝ってなかったっけ?ゴメンナサイ」
つぼみんがチョロリンと舌を出す。
今宵も御屋敷で吠えまくってるのは、お騒がせメイドにして僕の疫病神のリンカ。
どうやら、またも厄介ゴトを持ち込んだが、つぼみんが解決?してくれたらしい。
何だか知らないが偉いぞ!つぼみん。
今宵も、御屋敷には聖都アキバで起きる重要インシデントが次から次へと持ち込まれる。
最近では、ガスと岩が渦巻く混沌の世界に準え"原始惑星系円盤バー"とか呼ばれてる。
ソコへ電話だ。
つぼみん応答。
「あ、サリィさん?お久しぶり。ミユリ姉様ですか?未だなんですけど。え?テリィ様?ハイ、おられます。代わりますか?え、代わらなくていい?」
「え、誰?サリィさん?僕に用が…ナイみたいだな」笑
「切れちゃいました、電話」
サリィさんは、正体不明の特殊部隊に所属し何回か武力沙汰の現場も一緒したがヲタク←
僕の宿敵"未来ナチス"とも敵対関係にあるせいか僕達は何かと気が合う、いわば戦友。
そもそも御屋敷に電話して来るコト自体が珍しいのだが、僕に用事があるのはさらに珍しく、電話を途中で切るのはウルトラ珍しい←
何かが起きてる気もするが、とりあえず、この夜はヲタクな話題で盛り上がって終わる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところが、この間にアキバでは色んなコトが起きたようで翌日の御屋敷には緊張が走る。
先ずミユリさんが行方不明←
結局、ミユリさんは"秋のメイド神輿"の各御屋敷との合同の打合せから戻らない。
とりあえず、つぼみんがメイド長代理でオープンするが、まるでお通夜のお清めだw
ソコへ、外神田の老舗銭湯"秋ノ湯"の後継ぎのジョナが、アタフタと飛び込んで来る。
彼は、地元の幼馴染と団結し大陸系の不動産資本の地上げから老舗の暖簾を守っている。
ストリートギャング"セクシーボーイズ"の元メンバー。
「あぁ!やっぱりミユリさん、いない!コレはヤバいょ!テリィさん!テリィさん、いる?」
「あ、はいはい。ココだけど」
「ミユリさんを最後に見たのはいつですか?昨夜は御一緒でしたか?」
え?昨日の昼過ぎに駅近ホテルの"24"を(別々にw)出てからソレっきりだけど…
「"ヲタク座"の一件は、聞いてます?」
「あぁミュージカル"仏壇キング"がロングラン中の…」
「昨夜、狙撃事件があったンdeath」
ええっ?
外神田5丁目は、今では日本のブロードウェイだけど、この頃は未だ萌芽期。
未だ小劇場だった"ヲタク座"はロングランが出て強気の改装工事を実施中。
御近所のジョナの話では、23時07分、銃声が鳴り響き眠り始めた街にコダマする。
ジョナの通報で駆け付けた万世警察が、夜間は無人のハズの工事現場で見たのは…
男の射殺体。
額を1発で撃ち抜かれており、角度から見て隣接ビルからの狙撃と思われる。
夜間で、しかも隣接するビル屋内への正確な射撃には驚異的な技量が必要だ。
しかし、そんなコトよりも…
「さっき、万世警察の知合いがコッソリ教えてくれたんdeathけど、昨夜の現場検証中に鑑識が劇場で返り血を浴びたカチューシャを拾ったらしいんdeath」
「カチューシャ?あのメイドさんが頭につける奴だょね。ソレに血がついてたの?」
「ええ。で、そのカチューシャにはネームが入ってたそうdeath。"T→M always"」
僕が誕生日にプレゼントした奴だw
ミユリさんが…狙撃事件の現場に?
ま、まさか!
第2章 血染めのカチューシャ
「みんな、聞いての通りだ。力を貸してくれ」
僕の悲痛な叫びに、ジョナの話を固唾を飲み聞いていた常連が一斉に動き出す。
外へ飛び出して逝く者、誰かにスマホをかける者、事実確認をして推理する者…
「テリィ様、ひろみんからお電話です」
「えっ?あの@ポエム(メイドカフェ最大手)のひろみんから…あ、もしもし。テリィです」
「話、聞いたわ。ミユリは必ず見つかるから!気をしっかり持って。で、実は逝いづらいんだけど、昨夜は…メイド神輿の打合せなんかなかった。ミユリは、多分別の御用事で出掛けたんだと思う」
目の前がグルグル回る。
僕にウソをついたのか?
「テリィたん!とりあえず、鮫を呼んだけど!何でも喋らせるけど!あ、来た来た!遅いのよっ!私に恥かかせるつもり?」
「頼むょジュリ。ホトケが出ると同時に桜田商事(警視庁)が乗り込んで来て支店(所轄警察署)の現場にイキナリ帳場(捜査本部)を立てやがった。このヤマはヤバい。こんな時にメイドバーなんかに顔出せるハズがねぇだろ、普通」
「ソレなのに鮫の旦那、お運び頂きありがとうございます。何か手がかりになるような話はないでしょうか?」
新橋鮫は、新橋から万世警察へ異動になった敏腕刑事だが、ジュリの、まぁ、情夫だ。
ジュリはストリートギャング"セクボ"リーダーの妹で"クイーン"と呼ばれている。
「ま、呼ばれなくても来るつもりだったけどな!手短かに逝くぞ。"ヲタク座"のホトケは偽物IDを所持してたが、元空挺(陸上自衛隊の精鋭パラシュート部隊)と割れた。自衛隊を除隊してから、フリーで用心棒とか傭兵みたいな仕事を請け負ってたようだ。劇場に逝く前にカード払いで短期でアパートを借りてる。今、鑑識が急行中で、実は俺もソコに向かう途中だwサスガにテリィは連れては逝けないが、何か出たら教えてやる。ソレから、向かいのビルのバルコニーから旧ソ連製のドラグノフ(軍用狙撃銃)が出たがキレイに拭き取られてて、指紋はおろかDNAも出やしねぇ。コレはプロの仕事だ。とりあえず、こんなんで勘弁してくれ。じゃな!」
新橋鮫がアタフタと出かける。
ジュリが女房気取りで切り火←
入れ違いで虎吉さんが御帰宅してくる。
彼は、界隈を仕切る若頭をやっている。
「ヒモのテリィさん!ウチの若いのとセクボの小僧とで手分けして目撃情報のありそうな場所を調べてヤス。ホテルや銀行、タクシー会社や駅。アキバにいれば必ず見つけヤスので御安心を。ところで、気になる話を耳に挟みヤした」
「僕はヒモじゃないけど、ありがとう虎吉さん。で、何かあったんですか?」
「今朝方、ムチャ外科に泥棒が入りヤしたそうで。あ、ムチャ外科はアキバに市場があった頃からの医院で、ウチの若いモンが撃たれた時も、万世警察には内緒でワケも聞かず治療して下さって、オマケにお安いと逝う何を考えてンだかわからねぇ…じゃなかった、大変肝の座ったお医者でヤス。若い頃は男前でヤしたが、惜しいコトに頭が禿げて…ともかく!ソコに明け方、泥棒が入ったんでヤスが、ソレが何とメイドの泥棒だとか」
メイドの泥棒?!
「ガサゴソ音がするんでセンセが目を覚ましたら診療室でメイドが女の手当てをしてたそうでヤス。見かねたセンセが治療したトコロていねいに礼を述べ、何も盗らズに立ち去ったとか。年恰好はメイドも女もアラサー。女の傷は右腕に擦過射創。メイドの方は、メイドのくせして頭にカチューシャがないとセンセは大変なお怒りでヤした」←
「ソレは、カチューシャを落としたミユリさんだ!スピア!付近の防犯カメラのハッキング!」
「もうやってる!防犯カメラはちょうど死角なの…でも正面にコンビニがあるから、ソコのATMのカメラをハッキングしてる…ああっ!」
朝日にハゲ頭を輝かせて見送るムチャ院長に手を振りながら街頭を走り去る2人組は…
ミユリさんとサリィさんだw
第3章 その女、カルラ
僕は、居ても立っても居られなくて、御屋敷を飛び出し、ムチャ医院へ向かう。
ところが、外階段を降りて昭和通りに出たトコロでいい匂いのするお姉さんが…
「テリィさん!貴方、テリィさんょね?感激だわ!貴方の大ファンなの!私は飛行機で移動する時は必ず"メトロキャプテン"の本を持っていくの!」
「え?え?え?誰?スミマセン、急いでて…」
「もしかして、メイド長のミユリさんに会いに行くの?ってかココがメイド長の御屋敷かしら?有名なメイド長とSF作家のコンビに会えるなんて!お2人の活躍とか見れるのかしら?楽しみだわ!」
ラベンダーカラーの花柄ワンピ。セミロングの茶髪に人懐っこい笑顔。
アキバ観光客?でも何か怪しい。そもそも僕にファンなんているの?笑
すると案の定…
「動かないでね。お洋服に穴が開いちゃう。小さな丸い穴がね」
「ええっ!」
「だ・か・ら!動かないで。セイフティ(安全装置)がついてないのょ、この子。心配で」
彼女がハンドバッグから出した小型拳銃はS&Wのシールドw
満面の笑みを浮かべたまま、僕に抱きつくフリで脇腹に拳銃←
さらに、左手を僕の腰に回しながら何気にスマホを抜き取って路上で踏み潰す。
そのまま、しなだれかかるフリをしつつ腕を絡めて昭和通りの横断歩道を渡る。
何処へ連れて逝かれるのか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ところで、僕は全く気がつかなかったんだけど、僕達のコトを追跡するカップルがいる。
傍目にはサラリーマンとJKと逝う"ごく普通の援交カップル"に見え街に溶け込んでるw
「外神田6から昭和通り口。マンドリンは総武線高架下を浅草方面へ向かう」
「昭和通り口から外神田6。マンドリンのスマホはロスト。繰り返す。マンドリンからのスマホ電波はロスト。君達が頼りだ」
「光栄の極み。本分を尽くす」
サラリーマンは、虎吉さんのトコロの若い人で、JKは"セクボ"の現役JKガールだ。
外神田6は彼等のチーム名で、昭和通り口は前線基地となった御屋敷のコードネーム。
しかし、何で僕がマンドリンなの?笑
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
連れ込まれた先は、カラオケ。
聞いたコトのない店だったけど、中に入ってしまえば、チェーン店と変わらない。
彼女は、晴れてS&Wシールドを僕の額にピタリとつけて、安心したように逝う。
「あぁ良かった。いつ暴発するかと思うと、実は心配でヒヤヒヤだったの」←
「全くだ!ソレに実は僕も、君を探していたトコロだったから、ちょうど良かったょ!」
「…あのね。拳銃を向けられたら、普通そうは言わないモノょ。慣れてるの?ソレとも噂通りのバカ?」←
どんな噂だょ!
「実は、さっき君のボスに会ったんだ」
「貴方は何もわかってナイ」
「じゃ教えてくれょ」
「いいえ。教えるのは貴方の方。ミユリの居場所を言いなさい」
「実は知らないんだけど、知ってても逝わないような気がする。特に君にはナゼか」
「よく聞くセリフだけど、最後はみんな泣きながら言うコトになるのょ。少し痛い思いをしてみる?」
「いや、結構。エスプレッソ少な目で脂肪分控え目のミルクたっぷりなアイスラテとか持って来られるとペラペラしゃべっちゃうんだけどな」
「あーあ。貴方には肉体的な苦痛と精神的な苦痛と、どちらがいいのかしら。迷うわ」
「うーん。あんまり怖くない」
「正直なトコロ、アキバのメイドが、御主人様に黙って姿を消すなんて考えられないのょ」
「同感!実は、僕はメイドにウソをつかれた、アキバ1哀れな御主人様なんだ」
「…わかったわ。信じてあげる。でも、ソレを信じてあげるとなると、もう貴方を生かしておく必要もなくなるのょ。ゴメンね」
彼女は、銃口で僕の額をグリグリする。
ドッと冷や汗が出て、思わず目を瞑る。
その時、思い切りドアがノックされて…
「遅くなりましたぁ!メイドカラオケ"リフレーン"にようこそ!ウェルカムドリンクでーす!」
「え?普通のカラオケに入ったつもりだけど…」
「さぁ!御主人様、メイドとデュエットしましょ!1曲¥1500です!」
高いな笑
しかも、入って来たメイドは…つぼみんだw
ソレに…ウェルカムドリンクって"水"?笑
つぼみんは、僕と全く目を合わせようとせずテーブルにドリンクを並べ…
…損ねて、慌てて拳銃を隠した彼女に背の高いグラスの水をブチまける!
同時に女に飛びかかるが、女はプロの身のこなしで交わしつぼみんを派手に投げ飛ばす!
すると、開け放しのドアからサラリーマンとJKが飛び込んで来て次々と女に飛びかかる!
サラリーマンは右手にメリケンサックを付け得意?のストレートを繰り出すが女の1本背負いに合って、つぼみんに続いて宙に舞う!
だが、その瞬間の隙を突き3人目のJKがユルリと猫パンチを繰り出すと女が激しく痙攣!
何?あの猫パンチは何?と思ったらJKの手にはスタンガンが握られて火花を散らしてるw
「外神田6、脅威1を排除し身柄を拘束。マンドリンは御無事。繰り返す、マンドリンは御無事」
御無事って…最近のJKが使う敬語って、やっぱりヘンだょな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
つぼみんと外神田6の3人は、以後"腹黒い3連星"と称されストリートの尊敬を集める。
そして、彼等が"確保"した女は"チョベリバ"の教室の後ろに立たされ尋問を受ける。
"チョベリバ"は、ジュリが経営してる教室タイプのスクールキャバだ。
そして、彼女は全身を粘着テープでグルグル巻きにされてミイラ男状態。
あ、ミイラ女か?
「なぁ芝居はヤメろょ。スタンガンのショックはもう消えてるだろ?」
「あら。やってみる位いいでしょ?"メトロキャプテン"も使った手なんだから」
「ネタバレしてるんだょ。でも、ホントに"メト・キャプ"のファンなんだね」
「私の仕事、意外に暇なのょ。でも、アンタがメイドと付き合いだしてから、急にstoryが緩んでつまンなくなった」
「何とでも逝ってくれ」
「ねぇ。コレ、単なる私刑でしょ?アンタ達、訴えてやるわ!さぁ早く警察を呼んで頂戴」
「ん?呼んだか?カルラ」
ガラガラと"教室"のドアを開けて入って来たのは担任…ではなくて、新橋鮫だ。
「お前、カルラって呼ばれてるそうだな。どうせ今回限りのコードネームなんだろうが。俺は今、お前の死んだ相棒で元空挺のアパートから戻ったトコロだ。いゃあスゴかったな!部屋中、最新兵器ばかりだったぞ!ピストン駆動。サーマルスコープ。消音装置。プロの殺し屋の武器庫みたいだったな。貧乏傭兵のお前らが揃えられる装備じゃない。ヤタラ羽振りがいいが、お前らの雇い主は誰なんだ?何でミユリを襲う?」
「アラアラ勘弁してょ。アンタ達に話すコトなんて何も無いわ」
「なぁ。コイツは取引なんだ。元空挺のPCを押収した。今、ラボが急ピッチで解析してる。メールから何から全部やりとりを押さえてるンだ。何かを話すなら今しかナイ。全貌が明らかになってから歌っても何もしてやれない。君は切れ者だろ?何が自分のためになるか、よく考えろ」
「アンタ達、何を期待しているの?涙の自白?協力すればお勤めが減る?ありえない。刑務所なんて、お花畑みたいなモンよ。ミユリ、もうじき死ぬから。覚悟しておきなさい」
バタン!
大きな音がして、今度は掃除用具入れのドアが開き、中からつぼみんが飛び出す!
実は、教室の壁には大きな鏡がかかってルンだが、コレはマジックミラーなんだ。
面に「寄贈 令和元年卒業生一同」とか描いてあるけど、モチロン真っ赤なウソw
隣の事務室から店内が丸見えと逝う、地方のキャバとかにはよくあるつくりだ。
ソコで控えていたカルラ同様に包帯グルグル巻きのつぼみんが尋問の場に乱入。
「教えて!知ってるコト、全部教えて!」
全く抵抗が出来ないミイラ女のカルラに体当りして床に押し倒し、髪を踏み付ける。
すると、今まで強気一辺倒だったカルラの目に、みるみる涙が溢れ頰を伝い落ちる。
泣いている?
何が悲しい?
「貴女、私と同じ目をしている」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
君は2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件を覚えているか?
サトー無線前の交差点を血で染めて、7人が死亡、10名が重軽傷を負った通り魔事件だ。
あの悲惨な事件から10年が過ぎたが、僕達は今も"その日"は交差点へ花を供えに逝く。
この事件に関して、昨日の朝、通知が出る。
ソレは、政府の深部にあるデータベースの検索結果に関する通知だ。
その検索は、当時の政権に近かった気鋭の天文学者が依頼したモノ。
無差別殺傷事件が起きる数日前のコトだ。
その後10数年、保留になっていた検索依頼の結果が出たと逝う通知だ。
恐らく、最近になって機密扱いが解除されたのか、何かの偶然なのか。
ソレは電子化されたメモだ。
ほとんどが黒く塗りつぶされているが、余白に書込みがある。
大部分は難解な数式だが、かろうじて読める文字は人の名だ。
その名は…ミユリ
この通知が出るや僅か半日で少なくとも5人の人間が蒸発する。
拉致?監禁?いや、その5人が生きているのかさえわからない。
誰かが、何かの秘密を守るために"殺し屋"を放ったのだ。
その"誰か"は秘密を守るためなら手段を選ばないようだ。
恐らく機密の解除は偶然だろう。
その結果、半日で5人が消える。
そして、6人目は必死に逃げている。
第4章 終わりの始まり
カルラは6人目を取り逃がした"殺し屋"の1人だ。
日本人だが、ロンドン東部のハックニーの生まれ。
殺人ストリートのある治安の悪い地域だが、ヤタラと品の良い喋り方をする。
だが、ソレは20年の刑期をお務め中のママから教わったワケではなさそうだ。
恐らく、彼女がスラムで覚えたコトは、帰国後に入隊した自衛隊の特殊作戦群で上官を崖から吊るした時とかに発揮されたのだろう。
結果、彼女は除隊となりフリーとなる。
「崖から落ちないよう助けただけ。書類からじゃ人の人生なんてわからないわ」
そんな彼女だから、新橋鮫に連行された先の万世警察で警官の腰から拳銃を抜き署内で乱射の末に逃走したと聞いても僕は驚かない。
僕が驚いたのは、その彼女が突如として無罪放免となり、銃の乱射も"無かったコト"として扱われるコトになった、と聞いた時だ。
だって、警察署内で銃を乱射したんだぜ?
どんな力が、どう作用したらそうなるんだ?
オトナの都合をヲタクの世界に持ち込むな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日の御屋敷。
不思議な秩序が蘇って、何処からかフラリと戻ったミユリさんが御屋敷を開ける。
僕も何食わぬ顔で彼女のオリジナルカクテルを注文。何事もなかったかのように。
「先ず、自信たっぷりに相手の目を見詰めるコト。それが男を操るコツ。瞳で見詰めれば後はゴマかすのもクスねるのも、超カンタンのやりたい放題ょ」
やや?カウンター越しに、つぼみんに調査のコツ?を伝授しているのは…カルラだw
「え?私?私はアキバには、カフェを探しに来ただけよ?でも、ココにいるみんなが邪魔するから、なかなか見つからなくて」
「今回は、ソチラの世界の住人とは逝え、人が死んでる。オチャラケはナシだ」
「どうしても、私と関係のあるアルファベット3文字を当てたいのなら、ソレはCIAでもFBIでもなくて、モチロンSPYでも無いわ。私はIAU、つまり国際天文学連合に雇われて、フリーでセキュリティーの調査をしてる。具体的には、IAUの電子データを盗んだハッカーを探してるワケよ。で、このハッカーはマイナンバーも10万件ほど盗んでルンだけど、ソレを小分けにして売ってる。ソレを買う連中は、マフィアやドラッグディーラーやテロリストで、彼等は、ソレを基に偽IDを量産してて、その内5人分がアキバで使われた形跡がある。だから、私は調査をしに来たの。ターゲットは男4人に女1人。だから、貴方達が前に"犯行時刻"とか呼んでた時刻には、私は飛行機に乗ってた。アキバに着いたのは翌朝。だから、さっさと私のアリバイの裏をとって、アンタ達ヲタクのシガラミから解放して欲しいの。警察だって、もう私のコトは無罪と認めてるのょ?ヲタクがこんなに厄介な連中だったなんて知らなかったわ。ねぇ、もう私は、無垢の市民なんだけど」
「うーん。ちょっち待ってくれょ。だって、まだ話してないコト、あるだろう?」
「ソレは、アンタ達の方。先ず、ミユリは"ヲタク座"で、ある天文学者と会っていた。で、その天文学者は、ミユリと会った後で撃たれた。私と会うハズだった、あの元空挺の男みたいにね。あのね、私はね、ホントのトコロ、テリィに協力を申し出に来たのょ?でも、条件が1つだけあった。鮫さんだっけ?警察は抜きにして欲しかった。なぜかって?だって、彼等とは守るものが違うもの。彼等は法だけど、私は契約。IAUとのね。わかる?だから、警官は抜き。OKなら握手だったんだけど」
カルラは、そう逝って僕の瞳を覗き込むように見詰める。
思わずクラクラと…あ、いかんいかん!操られてしまうw
「ミユリのことでカッカして、アキバ中を駆け回って。私にしてみれば、貴方が未だ生きてるのが不思議なくらいょ。貴方は、ミユリのコトを何もわかってないわ」
「ミユリさんが悪いと言うのか?」
「ミユリはね、このメイドさんは、貴方の"推し"に収まるガラじゃない。不可能な戦いに挑む飛んで火に入る夏の虫と同じ宿命を背負っているの。夏の虫がどうなるかは貴方も知ってるでしょ?」
今度は、僕が彼女の瞳を見詰める番だ。
すると、彼女は異様に長い溜息をつく。
「ガキなの?あのね、お遊びじゃなく本気でミユリのTOをやりたいと思うのだったら、貴方は考え方を変えなくてはダメ」
「ヲタ(ク)友(達)を増やすとか?」
「そうね、ソレもいい。でも、時にはそのヲタ友を裏切ることも覚えなきゃ」
「ごめんだね」
「ダメね。どんな世界でも"いい人"は最後までは生き残れない。ほんとに死ぬのょ?」
「話せて楽しかったょ。また会おう」
「ミユリを心底推してルンだ?」
「アキバ中の誰よりきっと」
「ソレってロマンチック」
カルラは、フッと泣き笑いみたいな表情を浮かべたけど、直ぐにいつもの斜に構えた顔に戻ってミユリさんを指差し、お出掛けする。
カウンターの前はつぼみんに代わる。
「ごめんなさい。ミユリ姉様は、未だ常連さん達に昨日のコトを御説明中で。私でガマンしてください」
「ありがと、つぼみん。でも、"推し"との信頼が崩れて泣きそうだ。ミユリさんは、打ち明けてくれなかった。ヲタクだって戦うのに」
「そんなの無理ですょ。テリィ様は作家ですょ?たとえ、ミユリ姉様と最強のコンビであっても、御主人様にメイドの気持ちがわかろうハズがありません。姉様は、ワケがあって黙っている。推してるなら信じてあげて」
ココでつぼみんを脇にどけw、やっとミユリさんが僕の前。
「テリィ御主人様」
「とにかく、無事でよかったね、ミユリさん」
「サリィさんが、守ってくださったのです。彼女のお仲間も、元空挺の男から、私を守ってくださいました。スタートアップ側の傭兵だそうです」
「IAUと敵対するスタートアップ?あの驚異的技量の狙撃手も傭兵なのか。ところで、ミユリさんはソコで天文学者だったっけ?と会っていたんだって?」
「ソレは…兄の研究仲間です。兄も天文学者でしたが急逝して。兄が亡くなる直前に私に託したUSBメモリを渡してくれ、とのコトでした。そもそも、そのUSBメモリのコトは、兄と私しか知らないハズでしたが」
「僕は、そのお兄さんがミユリさんの名を余白に殴り書きしたメモを見たコトがあるなwそのメモが明らかになるや、人が死んだり姿を消したりしてる」
「実は…兄は、あのアキバで起きた無差別殺傷の犠牲になったと聞かされてます。ところが、犠牲者名簿をいくら探しても兄の名前が載っていないのです」
「ええっ?」
「警察からは、間違いなく犠牲になったと逝われたのですが」
あの事件の画像を見ると、犯人を取り押さえているのは制服警官ではなくて私服の人だ。
休暇中の警官との説明がなされているが、以前より公安関係者では?との噂が絶えない。
また古来より、無差別殺傷は"暗殺"を隠蔽する絶好の隠れ蓑とされている。
「そのメモリを託された時、お兄さんは何か逝ってなかったの?」
「その時は何も。ただ、その数日前に珍しく興奮した口調で電話があって…」
「ええっ?何て逝ったの?」
ミユリさんは、僕にだけ聞こえるよう、そっと声を落とす。
「僕は、太陽の裏側を見た、と」
おしまい(とりあえず)
今回は、メイド長の兄、兄が託したUSBを追うスパイ、傭兵、狙撃犯などが争奪戦を繰り広げるというミステリータッチの世界観を描いてみました。
敢えて兄の生死は不明として引き続き"光のスイングバイ"モノとしてシリーズ化して逝く予定です。あ、次作は既に決まっており、このシリーズではありませんw
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。