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冷たい部屋  作者: 竜胆
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不思議な部屋シリーズです。

文は退院後一人暮らしを再開します。

退院後は私はワガママを通して一人暮らしをしていた住宅で過ごしていた。睡眠時間は取れていたが、食事は作らず母が持って来てくれたオカズを食べたり、食べなかったりしていた。

お風呂も一人では沸かすのも勿体無く感じたし、冬で寒かったからシャワーを浴びるのは三日に一度で、他の日はホットタオルを作って顔や身体を清拭していた。

ひたすら本ばかりを読んで過ごし、カーテンも締め切り、外に出るのは病院に月に二回行く時と月に一度ハローワークに行く時だけだった。父が病院には連れて行ってくれていた。ハローワークには母が連れて行ってくれていた。


生け花は両親の反対を押し切ってまた習いに月に三回行っていた。

一月に『初生け』という儀式があるのだが、私は正絹の染物で菊に流水の模様の生成り色の着物に、赤色に大きなカトレアが刺繍されている帯を巻いて、初生けを先生から任されて菊の花を生けた。初生けの儀式の後は、先生と生徒さんで食事会をして、先生のお宅でお茶会をするのだが、私は着付けが苦しくなり気分が悪くなって皆さんに心配されながら横になっていた。先生からは「私の後継になって欲しい」と言われて、先生にそんなに期待されていたのかと嬉しくなっていたが、病気の事もあり、はっきりとした返事はしなかった。


父は私がカウンセリングや診察を受けている間、車の中で仮眠していた。

病院の外来ではまず受付をして、先にカウンセリングを約一時間受けて先生に自分の近況を話して、先生は聞き役に徹しておられた。アドバイスめいた言葉や励ましの言葉はなくて、私を肯定する言葉を掛けられていた。カウンセリングを受ける部屋は子ども外来の中の部屋の一つで定まっていなかった。キッズルームのように玩具や縫いぐるみが沢山ある部屋でカウンセリングを受けたりもした。

主治医の先生からは、外来の先生の部屋で診察を受けていた。先生はやはり私に暮らしぶりを尋ねられて、家族との関係も尋ねられていた。また私が余りにも無気力になってしまっていたから「『森田療法』という療法をしてみましょうかね」と仰り、簡単な作業を五個私にやってみなさいと提案なされたが、私はどれも実践出来なかった。

約四ヶ月程そんな暮らしをしていた。実家にも一度も帰らなかった。気持ちは滅入る一方で無気力だった。季節は春を迎えようとしてが未だまだ寒かった。


ある夜、妹に電話を掛けたら、彼女は「もう電話掛けて来ないで!」と強い口調で私に言った。私は身体の震えが止まらなくなり台所の床にうずくまって悲嘆にくれてしまった。妹の拒否が心底応えていた。泣きながら父に「病院に入院する」と電話を掛けた。父はすぐに住宅に来てくれて、私を抱きしめて背中をさすってくれた。一頻(ひとしき)り泣いた後に、私は入院道具と衣装ケースに服を詰め込んだ。もう家には帰らない、という気持ちで服をたくさん詰め込んでいた。


病院に電話を掛けて、「入院したいです」と私は言った。幸い病室に空きがあったようで、電話に出られた看護師さんは「受け入れ可能です。気を付けていらして下さい」と言ってくれた。夜九時過ぎに父の運転で病院に着いて、病棟のブザーを鳴らしたら、見知らぬ強面の男性の看護師さんが降りて来られた。私は彼に支えて貰いながら、エレベーターに乗り病棟に入った。父は看護助手さんと私の入院荷物を運んでいた。

二階の閉鎖病棟で降りて、看護師詰め所に入って、儚げな雰囲気の女性の看護師さんが私の荷物をチェックされていた。

私は強面の看護師さんから、「どうして入院しようと思ったの」と問われて、私は「家族問題です」と言って涙が止まらなくなり、彼は「もういいから、大丈夫だから」と少し狼狽(うろた)えておられた。私は泣くばかりだったから彼は父と話されていた。強面だけど優しい人だな、と思った。


案内された部屋は、最初に入院した時に仲良くなった若い女の子の部屋だった。その部屋は病棟の北側に位置する部屋で、底冷えがして私は寒くて眠れなかった。

閉鎖病棟は食堂は十時に閉められるし、病室が並ぶ廊下も途中でスケルトンの壁に鍵が掛けられていた。


翌朝、朝食は食堂のカートに取りに行って、ソファーが並べて置いてある憩いのスペースのテーブルにお盆を置いて一人で食べた。大半を残してしまった。

お盆を食堂に返しに行って、看護師さんから「ほとんど食べていませんね」と心配された。


部屋に戻り歯を磨いた。

日勤の看護師さんがお薬のカートを押しながら検診や問診をしに来られたら、前の私の担当の看護師さんだった。「担当になりました。困っている事は無いですか」と言われたけれど、部屋が寒いとか言えないと思い黙っていた。


私は言えずにいたのに、彼はもう一枚掛け布団を持って来てくれた。やっぱり勘がいいなぁ彼は、と思った。彼の優しさが心に沁みるようだった。

寂しい事に副長さんは違う病棟に異動されていて、男性の副長さんに変わっていた。にこやかな笑顔をなさる方だった。


私は閉鎖病棟に入っていたが、開放病棟のように自由行動が許されていて、外に煙草を吸いに行く事や売店に買い物に行く事が出来た。ジャンパーを羽織ってポケットに煙草とライターと携帯を入れて喫煙所に行ったら、顔見知りの方がおられ、会釈をしてから煙草に火を付けた。春分を過ぎたのに寒かった。喫煙所には桜の木が数本植えてあり、花が咲いていて綺麗だった。



第二回目入院です。


お読みくださり、ありがとうございます!


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