ある隊長を思うある新参兵を思うある軍人の話
サングラスの奥の柔く揺れる蒼色だとか、豪快に笑う口元だとか、節立った指が引く緻密な狙撃だとか。
仲の良い軍用犬の頭を撫でる優しい手付きだとか、そういったものを全部全部引っ括めて引っ提げて、一人でなかったことにしようとしてしまう、彼のことが嫌いだった。
今更、忘れられっこないのに、私を助けておいて勝手に死のうだなんて都合の良過ぎる話を、むざむざ聞き入れる理由なんて、こちらとしてはないわけで。
でもそれを彼にぶつけてしまえば、きっと、するりと躱されてしまうのだ。
それでもどうにか、引き止めたいと思い、ある人の、憎い背中を睨んだりもした。
「俺はね、善人になりたかったんだ」
私が睨む背中の持ち主を見つめて、かつて、彼が言った言葉だった。
「でも、ヒーローがいい人かって聞かれたら、そんなことはないんだよ。だから俺は、一体何になりたかったんだろうね」
まるで、太陽でも見るように、サングラスの奥で目を細めた彼を、少なからず憎くも思ってしまった。
そんな風に語った彼は、一度だけ、私の頭に触れ、私はその体温がどうにも忘れられない。
毛先に向かって色の抜けたアッシュグレーの髪が、長いまま揺れるのを見て、彼はそのまま、あの憎い背中を追い掛けた。
「隊長!」彼の弾んだ声は、鼓膜を揺らし、私の脳髄まで染み渡り、きっと一生忘れない。
彼はもう覚えていないかも知れないけれど、爆風が去った後、割れたサングラスの奥で見た蒼色に、私は確かに救われたと思ってしまったのだ。
いつの間にか、鎖の切れていた私のドッグタグを握った彼に、救われてしまったのだ。
だから、手の届かないどこか遠くへ行ってしまうことだけは止めて。
どうか、もう一度その笑い声を聞かせて。
アナタは私のヒーローでしょう。
最後に見た彼の背中は、彼の追い掛けた私の憎く思う背中と良く似ていた。