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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

剣鬼将軍YOSHITERU!(改)

歴史の資料って……みなさん、よくあんな古書とか読めますね、日本語とは思えん。

と、言うわけで諦めました。(笑)

タイトルの(改)は、まじめに調べて書こうとしていたお話の名残です。

 永禄8年(1565年)、二条御所は緊張に包まれた。

 奉公衆の1人が、御所襲撃計画の情報を手に入れたのだ。

 三好長慶亡き後、良くも悪くも暴走気味の三好家の動向を警戒して、御所の防備を固めつつあったのだが……どうも裏目に出たらしい。

 御所の戦力は精々100を超える程度だというのに、御所襲撃において三好家が動員する兵は8000から1万になるという。

 塀の高さとか、門の構えだとか、御所を囲む堀がまだ完成していないとか、そういう問題ではない。

 文字通り、すり潰される未来しかない。

 奉公衆をはじめとした幕臣が、緊張に顔をこわばらせて対策を話し合う。

 言葉は悪いが、13代将軍足利義輝は、京を追い出されての避難生活には慣れている……といっても、先代将軍の足利義晴が、管領の細川晴元との権威争いで度々戦をおこし、ほぼ全てに負けて近江の六角家を頼って逃げ出したそのとばっちりを受けたのだが。

 晴元と和睦して京に舞い戻ったところ、今度は晴元が家臣の三好長慶に見限られて管領に細川氏綱を立て、晴元ともども近江へと追いやられるなど、傍から見れば喜劇以外の何ものでもないだろう。

 ならば今回も近江に向かって……と言いたいところだが、そうはいかない。

 永禄6年(1563年)に起こった観音寺騒動によって、六角家はガタガタになっており、頼みにすることができそうもない。

 ならば若狭か、はたまた越前まで足を伸ばすか……意見は広がるばかりで収束へと向かわない。

 喧々諤々と、意見を交わし合う幕臣は少ない。

 将軍義輝に心からの忠誠を誓っている者など、実は少数に過ぎないのだ。

 古くからの幕臣家系はともかくとして、諸国の大名から送り込まれた者など、益無しと見れば軽やかに逃げ去る可能性は高い。

 そこに、将軍義輝が姿を現すことで、ひとまず場は静まった。

 周囲に押し出されるような形で、奉公衆の1人が状況を説明する。


 三好家が1万の兵をもって御所を襲撃しようとしている。

 戦ってもすり潰されるだけであり、京を脱出する方向で話を進めているが、どこを頼れば良いのか決まらない。


 義輝は小さく頷き、目を閉じた。

 その姿に、忠誠心の高い者は、唇を噛んだり、項垂れたりして将軍の無念を想った。


「この数年、諸国の大名同士の抗争を調停するなどして、将軍家の権威を取り戻そうとしてきた」


 静かな口調で語りだした義輝の声に、皆が耳を傾けた。

 将軍家に、大名と争うだけの兵はない。

 大名の力を借りつつ、権威を武器に大名同士の関係を調整してきたといえば聞こえは良いが、その実、いいように利用されてきたとも言える。

 挙句の果てに、将軍を弑そうと京の都へ大軍を動かすというのだ。

 将軍の首をすげ替えた明応の乱、庭の新築を祝う饗宴へと招いた上での将軍暗殺をおこした嘉吉の乱。

 異論はあろうが、その堂々過ぎる反乱が、前者二つ以上に将軍家の権威の失墜を示してあまりあるだろう。


「思えば、将軍家の権威が失われたきっかけは……嘉吉の乱にあると考える」


 幕臣から、嗚咽が漏れた。

 今の状況を鑑みて、将軍が覚悟を決めたのだと思ったのであろう。

 それは間違いではない。

 義輝は確かに覚悟を決めていた。


「将軍家復権の、好機来たれり」

「「「「「「「「……はぁ?」」」」」」」」


 ただし、斜め上の方向に。

 ぽかんとした顔を並べる皆を眺めながら、義輝は笑みを浮かべつつ快調に舌を回し始めた。


「そなたらには悪いが、奴らが狙うはワシの首一つ。ワシ一人殺すのに、ようも集めた1万の兵……腰抜けにも程があるわ」


 いや、それはあなた(将軍)を逃がさないため、逃走路封鎖のための数じゃないでしょうか。

 幾人かが、心の中でツッコミを入れる……が、心の中の言葉は誰にも届かない。


「嘉吉の乱においては、赤松満祐は200程の兵を播磨から密かに呼び寄せてあったと聞く……京における暗殺で失墜した将軍家の権威、その50倍の兵を討ち散らすことで、権威を取り戻してなおお釣りが来るであろうよ」


 いや、その理屈はおかしい。


 バラバラだった幕臣たちの心が一つになった瞬間である。

 かつてないほどの連帯感を持って、幕臣たちはさまざまな言葉でツッコミを入れた。

 しかし、義輝は華麗にカウンターを決める。


「考えても見よ。1人に対して一度に攻撃できるのはせいぜい5人……右から5人、ワシにかかってこい」


 塚原卜伝の教えを受けた直弟子とされる義輝、身体に触れさせることなくひと呼吸のうちに5人の首筋を手刀で優しく打ち据えた。


「次は10人。ワシの身体に触れさえすれば、そなたらの言を聞き入れてどこにでも逃げてやる」


 それを聞いて、10人が本気で義輝にかかっていった……が、ひと呼吸5人を2回繰り返して10人全て首筋に手刀で打たれてしまった。

 ならば、と20人ほどがかかっていったのだが、4呼吸で(以下略)。


「ひと呼吸で5人倒せる……1万なら、2000の呼吸で倒せることになるな」


 どうしよう、ツッコミが物理的に届かない。

 幕臣たちは、言葉の無力を噛み締めた。

 武力なくして権威(説得力)なし、まさにこれが将軍家の現状であった。



 三好家の兵の動きが実際に情報としてもたらされ、このままなら明日に襲撃を控えた夜。

 幾人かが御所を逃走したが、義輝はただ笑ってそれを見送りさえした。

 そして静かに、残った幕臣たちと盃を傾ける。

 義輝に対する忠誠によって残った者、そもそもほかに行き場のない者、立場や思いはそれぞれだが……どこか突き抜けた感じの義輝の表情に、なんとなく心温まる想いを抱いていた。

 鬱屈したモノを抱えたまま、無理に笑ったり、怒りさえもままならぬ姿を見てきた者にとって、今の義輝は何とも言えない自由な闊達ささえ感じ取れるのだ。

 ここで終わること、それは決して良いとは言えないが、悪くもないのではなかろうか。

 特に騒ぐでもなく、静かに盃を傾ける。

 そこには、今までにない、明るさに満ちていた。


 そして、警護のものを除いて、各々が眠りにつき……朝が訪れる。


 夜明けの時点で、二条御所は三好家の兵に囲まれていた。

 絶望的な戦いを前に、幕臣たちの表情は明るい。

 既に覚悟を決めた武士にとって、戦いの気配はただ血を昂ぶらせるだけなのだろう。

 しかし、ここでまた義輝が斜め上に向かってぶっ飛んだ行動を取る。


「ワシ一人で戦い、勝つことによって将軍家の権威を取り戻すことができるのだ。そなたらは手出し無用」


 と、刀と手槍を手に、御所から飛び出していったのである。

 もちろん、義輝は本気も本気なのだが、ここまで常人離れした発想は、常人には理解されない。


「まさか……一人で死ぬことによって、わしらの命を守るおつもりなのでは…」


 ポツリとつぶやかれた言葉に、全幕臣が泣いた。

 死の覚悟を決めた上での戦であり、全員が酔っ払っているようなものである。

 全員が、ありったけの矢を放ち、武器を片手に突っ込んだ。

 これに驚いたというか、当たり前の対応を示したのが三好家の兵である。

 この突撃を、包囲網を破っての逃走と判断し、距離をとり、包むように動いていく。

 押せば退く。

 さらに押せばさらに退く。

 義輝は舌打ちし、全員を御所へと退かせた……が、当然自分ひとり居残る。


 そして、高らかに名乗りを上げた。


 しかし悲しいかな、義輝の顔を知るものなどそう多くはない。

 むしろ、『え、マジ?誰か将軍の顔わかるやつ連れて来いよ』などと、混乱する始末である。

 もちろん、手柄首目指して単独で突っ込むバカも何人かいたが、さらりと義輝にやられたのは言うまでもない。

 義輝の師である塚原卜伝は、剣豪として名高い。

 その塚原卜伝をして『教えられることは全て伝えた。あとはただ斬り覚えるべし』と言わしめた義輝は、今正しく『斬り覚えつつ』あった。

 別の剣豪の言葉を借りれば、『人斬りの技は、人斬りによってのみ磨かれる』ということだ。

 余分な力はいらない。

 余分な動きもいらない。

 人は、一寸斬り入れれば死ぬ。

 首筋、太腿、脇、肘の内側……血の管を切れば、それで済む。

 返り血を浴びると、脂で手が滑る。

 返り血を浴びないように避ける動きが必要になる。

 返り血を浴びないような斬り方がある。

 相手の動きに合わせて、刀の先を置いてやる。

 相手が斬られにやって来る。


 ふと、気が付けば陽が西に傾きつつあった。

 飛んできた矢を避け、必要な分だけ払い落とす。

 周囲に転がる肉の塊……所々でうめき声が聞こえるが、まあ長くはないだろう。

 およそ、200というところか。


 今日一日でケリをつける気だったはずの三好家だったが、全員による突撃、その後1人だけが残って刀を振るうわ、その1人がよりによって将軍足利義輝だと確認が取れてしまうわで絶賛混乱中であった。

 まずありえない。

 ありえないからにはなにか理由がある。

 影武者?

 援軍?

 無駄に疑心暗鬼をかきたてられ、周囲への警戒やらなんやらで、まともに攻撃ができなかった。

 まあ、大勢に影響はない。

 影響はないのだが、この日戦場に漂った異様な雰囲気……それが、伝説へのきっかけとなる。



 二日目の朝。

 三好家の兵たちは、門の前に立つ義輝の姿を目撃することになる。


「かかれぇーッ!」


 声こそは威勢良いものの、それは怯えからくる勢いだった。

 言葉を飾らずに言えば、『あいつ、頭おかしい』というところか。

 人は、己の理解できぬことに怯え、恐怖を見出す。

 三好家の前線指揮官は、早く終わらせたいと……ただ急いだ。

 総大将もまた、あまり時間をかけたくないと思っていて……急かすように言葉を与えた。

 間違ってはいないが、冷静さを欠いていた。

 弓で射ち、鉄砲で撃ち、時間をかければ良いのである。


 当たり前ではない義輝に、時間という名の経験値をたっぷりと与えてしまった……それはあくまでも結果論。


 次から次へと襲い掛かる敵兵を、義輝は最小限の動きで無力化していく。

 亡骸を転がせば、相手の動きを制限できる。

 相手の動きを妨げるように、斬った相手をそちらへ転がす。

 斬った相手を盾にして矢を防ぐ。


 やがて、義輝の世界から、景色が消えていく。

 色が消えていく。

 音が消えていく。

 光が消えていく。

 闇の中、微かな光に向かって移動し、刀を振るう。

 ただただ光の方向に。

 遠くの光に向かって駆けることもあった。

 時には真横に、時には真後ろに光の存在を感じ、感覚に任せて身を投げた。

 人を斬っているという意識は、もはや義輝にはない。

 余分なものは何もない。

 真なる心のままに、そう、真心マシンとなっていた。


 二日目の陽が落ちる。

 無造作に背中を向け、御所に向かって歩き始めた義輝にかかっていく者、矢を射るもの、鉄砲を撃つものはいなかった。

 1万の兵からすれば、そこに倒れているのはわずかな数に過ぎない。

 しかし、義輝に向かってかかっていった者は、みな死んだ。

 鉄砲を構えたものは、獣のように飛びかかられて殺された。

 矢は避けられ続け、気が付くと味方の兵に向かって射掛けさせれた。

 義輝の周囲には、濃厚な死の気配があり、それを感じ取れぬ兵は誰ひとりいなかった。


 三日目の朝。

 昨日と同じように、義輝が門の前に立っていた。


「ぁ、ぁ、ぁぁああああああっ!!」


 奇声じみた声を上げて、兵が走り出す。

 半数は、義輝に向かって。

 半数は、義輝に背を向けて。

 恐怖は伝播する。

 死は、伝播していく。

 指揮官の指示など聞かずに、兵が走り出す。

 四方八方に。

 優秀な前線指揮官ほど、その場に踏みとどまって混乱を収めようとする……が、次の瞬間、義輝によって命を絶たれた。

 義輝が駆けていた。

 昨日までかかってくる兵を返り討ちにしていた義輝が戦場を駆けていた。

 義輝が京の都を駆けていた。

 義輝に、余分なものはない。

 想いすら重荷とばかりに投げ捨ててただ駆ける。

 ただ、光に向かって駆けている。

 大きな光が3つ見えた。

 1つ。

 もう1つ。

 光が消えた。

 どこにも行けない。

 どこも目指せない。

 闇の中立ちすくむ義輝の世界に、光が戻ってきた。

 音が戻ってきた。

 色が戻ってきた。

 そして景色が戻ってきた。

 しばし、義輝は放心していた。

 真心からの帰還。

 ふと足元に目をやれば、見覚えのある首が2つ。

 三好政康、岩成友通。

 ぶるり、と義輝の身体に震えが走る。

 足の裏から頭の先へと、得体の知れぬ激情が突き抜けた。


「ぉぉ、ぉおおおおおおおおーッ!!」


 京の都に、義輝の雄叫びが響く。

 雄叫びが空に消えても、義輝の身体の震えはしばらく止まらなかった。



 幕臣たちはただ見ていた。

 無造作に、しかしながら礼を失する感じを与えるでもなく、2つの首をぶら下げて二条御所へと戻ってくる義輝の姿を。

 義輝が近づくにつれて、皆が膝をついていた。

 皆が頭を下げていた。

 人知を超えたものに対する敬意。

 将軍とは、征夷大将軍とは、本来このような、人知を超えた存在ではなかっただろうか。

 彼らの胸の中で、義輝は今まさに将軍となった。

 我、幕臣なりと、胸に誇らしい気持ちが溢れてくる。

 義輝が帰ってくる、将軍が帰ってくる。

 足を止め、にこりと、闊達な笑みを浮かべて。


「今、戻った」


 幕臣たちの瞳から涙が溢れた。

 拭わない、拭いたくない。

 今流す涙は、拭うべきものではない。


「お怪我は?」

「ない」


 何でもないやりとりに、また涙があふれる。


「陽が沈むまでに、まだ刻がある。死ねば皆仏よ、この戦いで死んだ者たちの弔いの手はずを整えよ」

「はっ」


 数人が頭を下げ、即座に走る。


「周辺に散った三好の兵の動向を探れ」

「はっ」

「この度の騒動の顛末を、主上に報告する。誰か原案を」

「はっ」


 心地よいやり取りが続いていき、義輝はひとつ息を吐いて腰を下ろした。


「すまぬ、腹が減った。何かないか?」


 その場に残った者は顔を見合わせ、そして笑った。

 義輝も笑った。

 二条御所を包む、暖かな空気。

 それは、守るべき何か。

 そして、日の本へと広げていかねばならない何か。



 逃げ散った三好の兵は、各地において生々しい恐怖をにじませながら、戦いの様子を語った。

 あまりにあまり過ぎる内容だけに、遠方の大名家はそれを信じずに笑い捨てた……が。

 庶民は信じた。

 と、いうか、あまりにも目撃者が多すぎた。

 いつしか、畿内を中心に、義輝は剣の鬼、剣鬼将軍と呼ばれるようになっていく。

 50歳にて我が子に将軍位を譲るまで、義輝は多くの戦いに身を投じた。

 山城、摂津、大和、若狭、和泉……近江や紀伊も含め、畿内全域をほぼ室町幕府の直轄領、もしくは幕臣の領地へとなしたが、ここが剣鬼将軍の限界であった。

 室町幕府中興の祖、いやむしろ真の室町幕府を開いた人物などと後世において評されるが、これより長らく日本は7国時代と称される群雄割拠の時代に入る。

 キリスト教による文化的侵略をはじめとした、血湧き肉躍る、不安定な時代を招いた原因などと、厳しい評価を与えられたりもしているが、幕府直轄領において、幕府滅亡直前まで他の地域よりも善政が敷かれていたという評価は一致している。

 余談だが、剣鬼将軍としての伝説の数々は、『完全肯定』の義輝最強派閥と、『話もりすぎだろ、常識的に考えて』の伝説否定派閥、そして『否定したいけど資料が揃いすぎですぅぅ』の涙目肯定派閥の、おおむね三つに分かれている。



 力なき権威に意味なし、されど力のみの権威を求むるなかれ。

 光を求めよ。

 光を与えよ。

 民を、その地を、光にて照らせ。

 暖かなるものの中に、真なる心はある。


 しばしば物理的に戦場を駆け抜けた義輝が、我が子、14代将軍を継いだ義光に授けた訓戒の言葉である。

 それを受けて、義光の顔がこわばっていたのは緊張か、それとも……。

あ、三好三人衆の三好長逸は逃走に成功したという設定で。

何故長逸だけが生きのびたのかには、特に理由はありません……まあ、死ねば助かるのにという感じに、1人ぐらいはイケルかなという気分です。

夜に攻撃しなかったのは、何をされるかわからないという恐怖があったからということで。

ご都合主義万歳。


さて、次は呂布無双(改)か……。

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