一章 黎明
一週間での投稿と相成りました。これまでの反省を活かして、世界観説明を入れていきます。
仄暗い夜が明ける。辺りが薄く白んでゆく。
篠突く雨が降る。雨晒しの鳥篭に打ち付ける。
静寂。ふと見ただけなら、秩序の保たれた街。
忘れられた様な『5K─149』は、鉄格子に額を付ける。日が出るまで、あと数時間。己が人間でいられる時間だ。最早、自分を番号で呼称するのに何の抵抗も無くなった。今日の夕方、『5K─149』は何処かの貴族に売られる。
テリアの街、スラム街の路地裏。乞食も近付かないこの区画は、奴隷商人が取り引きをするのに丁度良い場所だ。暴行により、遂に意識を手放した時と風景が変わっていない。恐らくそこで正しい。
入り組んだ裏道を抜けた先、少し開けた空間。元々街の広場だったのだろうか。崩れかけた住宅に周りを囲まれ、吹き抜けた頭上にはなけなしの薄い布が張られている。
寒い、のだろうか。じんわりとした感覚が皮膚を伝う。
この街で奴隷に堕ちた者の末路は、街の外から来た者なら誰でも知っている。自分達が一番商品として都合が良いと、理解しているからだ。
消えぬ烙印を、人ならざる証を額と背中に押され、死ぬまで物として使われる。愉悦の為に殺されるかも知れない。地下深くの坑道で死ぬかも知れない。享楽のままに犯される事も間々あるだろう。それとも、認識がまだ甘いだろうか。
……そんな奴隷になった。自分は。
「…………、ぁ 、は…………」
自分の喉から掠れた音が漏れる。奴隷商人の男達はまだ寝息を立てている。見張りが殴りに来る事も無い。
硬い檻をそっと握る。強張った腕が軋んだ。
……都市が危険な事なんて、分かっていた。故郷の貧困とは別種の貧困。それでも、来なくては何も始まらなかった。だから、二人と一緒に故郷を発った。
故郷の為、お金が必要だった。もうじき訪れる冬に、皆が飢餓で喘ぐ事の無い様に。
皆の為、強さが必要だった。増え続ける徴収、帝国軍隊への徴兵から、皆を守れる様に。
彼等の為、力が必要だった。大切な友達を取り返し、今度こそ笑って成功を掴める様に。
今、全ての希望は失われた。自分の、せいで。
考えるのも、億劫。何を今更思おうと、無為。
込み上げる嗚咽に気付かない振りをする。
無表情。薄く伝う雫を、噛み殺した。
目の前が霞んでゆく。……こんな状況でも、脳と心は睡眠を求めるらしい。
黒々洞に沈む。墜ちる。次に蹴られて起こされた時が、自分の最後だ。
…………? 今、何か通り過ぎた気がした。
至極色の影。廃屋の上を、滑る様に…………。
……………………。
次もこの調子で、なるべく早く出せる様に頑張ります。