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千章 ─ それでも語られぬ『彼等』へ ─

 新シリーズです。

 報われぬ虚しさ、腐敗した世界、救いの無い物語達。奴隷と彼等の物語です。

 是非、お読み下さい。

 




 そうだな。


 例えば、その者を『靴屋』とでも呼ぼう。





 『靴屋』は今、死の床に臥していた。硬い木のベッドの上、さながら棺か。古びた木の香り、それだけがこの部屋の時が止まっていない証だった。


 高い窓から差し込む斜陽は、舞っては落ちる埃だけを照らしていた。


 ゆるやかに、静寂に包まれて。




 その者……、『靴屋』は、死んでゆく。






 或いは、もっと前から話そうか。



 『靴屋』がシノリア・バレッタを殺したのは、何年前の事だろうか。






 真実を知る者。証人。そんな者、いるはずも無い。史実に覆い隠され、歴史に語られる時は、遂に来なかった。


 当然だ。『靴屋』もそれは理解している。輝かしい栄光の裏で、報われないままに朽ちてゆく……。そんな人生を歩み、命を燃やし続けた者など、この国や世界には星屑の数程いる。血煙の中で無残に散るのも、誰の記憶からも消されて暗い路地裏で独り果てるのも。彼等にとっては変わらない。



 彼等が正しかったか否かは、後の賢人が、そして先の世界が示しているだろう。しかし、彼等にその声が届く事は無い。無いのだ。


 何故なら彼等は、選んだからだ。「語られない」という道を。何を失っても、何を得ても、この世界の裏側に置いて行く事を。




 地獄に生き、無情を知り、それでも尚『世界の裏側で戦った』のだ。彼等も……、そして、彼等しか知らない記憶と共に、何処かずっとずっと遠い所に発とうとしている、『靴屋』も。






 ……彼等の記憶と生きた痕跡を、途絶えさせて良いのだろうか。その無念も感じた無為も、辿り着いた虚無も。気付かれぬままに終わるなんて。



 ──あまりに絵空事だろうか。美化し過ぎただろうか。綺麗事、だっただろうか。



 分からない。今となっては最早遅すぎる。しかし、まだ間に合うのなら。彼等の生き様が、何処かの誰かに届くのなら。







 …………もっともっと前から。

 いっそ、全ての始まりから話そうか。






 ……そう。なら、語ろうか。誰にともなく。








 連綿と続く物語。永劫に輝く抗争の灯火。




 『靴屋』と『彼等・・』が奏でた輪舞曲ロンド







 昔々。

 まだ、あのきざはしが架かっていた時代。

 海を見上げ、足元に空を踏み締めていた世界。

 動植物が人を嘲笑う世界。

 名前の無い物が今より何倍も多かった時代。








 テリアの街。篠突く雨が叩きつける夜明け。

 鳥篭に入れられた奴隷が売られていた。

 夢は、大金持ちに成る事だった。

 プロローグでした。

 次から本編始まります。

 はい。

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