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刀旅~とうた~  作者: 夜富 陽太
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崩れさる日常

「何だこれ…」


 けんは驚愕の表情でそう言わざるえい状態だった。

 刀の目の前にあるのは刀だ。

 刀のつもりである。


「何だこれ?鉈か何かか?」


 隣で首を傾げながらりきが更に付け加える


「お前って本当に上達しないよな。この前もひどかったな…先端から中央まで太くて、中央から根本まで細いっていう。あれは珍獣か?珍獣ツチノコですか?できるなら教えて下さいよ。そのやり方」


 ニヤニヤとした顔で煽ってくる。

 ムカつく、金槌で1発顔に打ち込みたい。


「うるさい!こっちは真剣にやってるんだ!笑うなよ!」


「わかった、わかった。俺が悪かった。これもお前の才能だ。天才、テンサイ」


「親方ぁ!謝ってるのか、煽ってるのかどっちですか!」


「そりゃ、もちろん煽ってるに決まってる」


 当然と言わんばかりの表情で力が言葉を返す


「親方…」


 刀は耐えきれず金槌を振り上げた


「ちょ、おま!悪かった!俺が悪かったから金槌を降ろせ!」


 刀はそう言われるとゆっくり金槌を下げた


「ふぅ、驚かせやがって」


「今度同じようなことがあったら、間髪入れず親方の顔を刀にしますからね」


「うへぇ、コワイコワイ。おっと、もうこんな時間か。刀、稽古の時間だ」


「もうそんな時間ですか。今日こそは1本取ります!」


 そう言うと2人共道具を置き、木刀を持ち外に向かった。

 外は夕暮れ、二人は木刀を構える。


「今日こそ、その頭に1本決めてやる!」


「馬鹿野郎!殺す気か!誰が俺の頭に1本決めるって言った!相手の刀の折ったほうが勝ちだろ!」


「そうでした。忘れてました。チッ」


「嘘だろ!何だ今の舌打ちは親方聞いてましたよ!はぁ…とにかく俺はお前に身を守る剣術を教える!人を殺す剣術は絶対に教えない!いいな!」


「はい!」


「では、はじめ!」


 お互いに言葉をかわして開始の合図が告げられ沈黙が訪れる。

 両者相手の出方を伺いつつ徐々に距離をつめていく。

 そして、お互いに1歩踏めば木刀が届く位置に入ると


「うおおおおおお!」


 最初に仕掛けたのは刀である。

 上段の構えで力の木刀の根本を狙うが


「甘い!」


 力は、それをつばで受け止める。

 そして勢い良く鍔を押し、間合いを更に詰める。

 両者ほぼ密着状態で鍔迫り合いに入る。

 刀は、間合いをあけるために引くが


「逃げるな!」


 力は、刀が距離をあけた分だけ詰め、

 そして刀の木刀を下に弾き木刀の根本を芯でとらえた。

 バキッと鈍い音が響く。

 刀の木刀が折れたのである。


「今日も俺の勝ちだな。そういうわけで、風呂と飯頼んだわ」


「くそ!いつになったら1本取れるんだ!このままだとずっと風呂飯当番だ!」


「刀、鍔迫り合いのとき1歩引いたな。別に悪いことじゃない。でも攻めることも大事だ。どんな時も守ってばっかじゃダメなんだ」


「分かってます。わかってますけど…」


「別に今焦って直すことじゃない。ゆっくり直してけばいい」


「分かりました。親方…」


「よし!今日の稽古は終わり!飯楽しみにしてるぞ!」


 そうして2人共家の中に入っていくのだった。

 気がつけば日も落ちあたりは暗くなっていた。

 この夜刀は、稽古の時に力に言われたことを布団の中で思い出す。


「攻めることも大事か…」


 刀は、そう呟くと眠りにつくのだったのだった

 刀は珍しく早く起きた。

 力は驚いて


「お前が早起きなんて今日、嵐でも来るんじゃないか?」


 と刀を茶化したが、刀は


「おはようございます親方。嵐なんてそう簡単に来ませんよ」


 軽く流したのだった。

 刀は、自分が異常に落ち着いてることに違和感を覚えるが、それを気にすることはなかった。

 刀の様子を見と態度を見て力は 


(今日本当に何かあるかもしれないな)


 と心のなかでつぶやくのだった。

 二人とも食事を済ませ。

 いつも通り鍛冶場に行き作業を始めるのであった。

 そういつもと何一つ変わらず。

 昼が過ぎもうすぐ夕方になろうとする頃に玄関から呼び鈴がが聞こえた。


「俺が行くから仕上げはやっといてくれ。いいか波紋を傷つけるなよ。波紋は刀の顔なんだからな!」


「わかってますよ!早く言ってください!」 


 力は刀にそう言われると急いで玄関に向かった。

 玄関の扉を開けるとそこには、黒いスーツを着た三人の男が立っていた。


「はじめして蓮華力さん、今日はあなたから譲っていただきたいモノがあって参りました」


 一番前に立っていた肩まで髪を伸ばした白髪の男が力にそういった。


「そうか。生憎今立て込んでてな、また今度にしてくれや」


「そういうわけにも行きません。依頼人からは今日中と言われましてね。”手荒い事をしてでも手に入れろ”とのこで、気は乗りませんが貴方を切らしていただきます」


 そういと男は腰にさしていた刀を抜こうとした。

 しかし、その直前に力は一番前にいる白髪の男を殴り飛ばした。


「お前らなんかにアレを渡すかよ!どうせ依頼人はアイツだろ!」


「ふっ、鋭いですね。そう私達の依頼人は”闇”。いずれこの国の上に立つお方」


「ふん!アイツと分かった以上アレはお前たち渡す訳にはいかないんでね」


 そういうと力は玄関の扉を閉め鍵をかけ刀のいる鍛冶場に向かうのだった。

 力は鍛冶場に着くなり刀に向かって言った。


「刀!悪いがここは今日も以って閉店だ!ここを出る準備をするからついて来い!」


「え?え?何言ってるんですか親方!」


「いいからついて来い!」


 そういうと蓮華はいつも二人が寝ている和室に刀を連れて行った。

 そして、蓮華はひとつの畳をめくりそこにあった扉を開ける。

 そこには”零刀 継”(れいとう けい)と書かれた木箱があった。

 そして、その文字の隣には、斉王一さいおう はじめと人の名前らしきものが書いてあった。


「親方これは…」


 刀は、力に尋ねた。

 しかし力は答えることなく刀と思しきものを木箱から取り出し言った


「この刀をお前に託すとても大事なものだ。誰にも渡すなよ」


 そういって刀に、刀を渡した。

 しかし、頭の中がパニック状態に陥っている刀は素直に受け取れずにいた。


「どういうことですか!説明してください!」


 刀を受け取らずに、力に対し更に質問を重ねた。


「今は説明してる時間はない!だけど、この約束だけ守ってくれ!誰にもこの刀を渡さないと!」


「約束…」


「あぁ…俺からの最後の約束だ」


「最後って」 


 刀はその一言で全てを察した。

 今自分が置かれている状況と、自分が今何をするべきかを。


「わかりました。その約束受けましょう」


 そういって刀は、力の手から刀を受け取ろうとした


「残念ながらその約束今日中に破られそうですね」


 突然横から声がした

 見るとそこには、男3人立っていた。


「その刀を私達に渡しなさい。そうすれば命だけは助けてあげましょう」


「刀!こいつを持って逃げろ!」


 そう言うと刀は反対の窓を指さした。

 刀は窓に向かって走り外に出ようと窓に足をかけた。

 そして振り返り


「親方。後で絶対に追い付いてきてくださいね」


 と刀に向かって言った。


「当然だ。俺がいないとお前は何もできないからな」


 と笑って返した。

 そして刀は、窓から外に出て森の方に走っていった。


「逃げたか。まだ走れば追いつくか」


 男が刀を追うとしたら


「おっと、ここからは通行止めだ。引き返して帰んな」


 力がそう言い立ちふさがった。


「邪魔です。どいてください」


「どのみち切られるんなら。お前らを邪魔してから切られるに決まってるだろ」


 そう言って力は自分の懐から小刀を出した。


「おやおや、そんな玩具のようなもので、私達とやりあうと?」


「初めから勝つ気なんてねぇよ。言ったろ?邪魔をするって」


「はぁ、じゃあ望み通り殺してさしあげましょう!」


 そう言うと男たちは刀を抜いた。その頃刀(けんは森の中を走っていた、ただひたすらに。

 一歩でも多くあの男たちから逃げなければ。

 そして約束を守らなければ。

 そんな考えが頭のなかを支配する。

 気がつけば刀は洞穴の中に隠れていた、小さい頃から何かあるとよく隠れていた洞穴。落ち着く。こんな状況なのに。奥で幼い自分が膝を抱えている姿が一瞬見えた。まぶたが重い。何も考えられない。

 そして刀は静かに眠りについた。

 瞼に刺激を感じた刀は、目を開けた。

 気づけば朝だ。鍛冶場は親方はどうなったのか刀の脳裏に最初に浮かんだのはそのことだった。

 刀は鍛冶場に向かった、親方は必ず生きているいつも言ってるつまらない冗談を用意して待っている違いない。刀はそう願いながら鍛冶場に向かった。


「ふざけんなよ」


 刀が見たのは大きく広がった血痕だ。

 大量の絵の具がついた筆をそのままカンバスに叩きつけたような真っ赤な大きな血痕である。

 しかしそこには蓮華の姿も黒スーツの男鯛の姿もなかった


「どうなってんだよ!親方いたら返事しろよ!」


 目の前の惨状に混乱する中、刀はこの家の主を呼んだ。

 それに応えるように玄関の方から扉が開くがした。


「親方いきてたのか!」


 刀は喜びのあまり玄関の方へ走って行った。

 しかしそこにいたのは


「残念でしたね、あなたの師匠じゃなくて私でした。もしかして戻ってくるかもしれないとこの家にもう一度来たのは正解でしたね。さぁ刀を渡してください、そうすれば楽に殺して差し上げます。もし渡さないのなら苦痛にもがきながら死んでいただきます」


 そこにいたのは白髪の男であった。

 そして事務的なんの躊躇もなく刀に死の選択を迫るのである。

 しかし刀は


「親方は…親方はどこだよ!教えろよ!」



 選択を無視し蓮華の場所を聞いたのである


「聞いてませんでした?貴方に聞いたのは刀を渡して私に殺されるか、渡さず苦しんで逝くかどちらかですよ?」


 男は自分の問いかけが無視され顔に怒りの色が見え始めた。

 さらに刀はそこに火に油を注いだ。


「うるせぇ!お前の戯れ言なんて知るか!俺が知りたいのは親方がどこに言ったかそれだけだ!」


「はは…」


 刀がそう言い切ると、かすかな声とともに男の肩が不意に震えた


「はははははははははははは!」


 男は顔を抑えながら大音声で笑い出した

 その光景に刀は困惑するのであった


「何がおかしい!」


「いやぁ、私の問いが戯れ言ですか。そんなこと言われたのは初めてですよ。わたしは真面目に言ったつもりだったのに、貴方は戯れ言と…面白い。

 そして怒りました。貴方を今ここで斬り殺します。残念ですね、遺言くらい残す時間を差し上げようと思っていたのですが、貴方がそう言うのなら仕方ありませんね」


 男はそう言うと抜剣し刀のもとに疾走するでであった。


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