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罪と記憶。  作者: 柊
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プロローグ



「は、はぁっ、はぁっ」



 ーー静まり返った夜の森に、男の荒い息遣いと地面を蹴る音だけがやたらと響く。


 滝のように流れる汗に、じっとりと体に張り付く髪や衣服が気持ち悪いと思う余裕すら今はなかった。

 

 日中でもあまり光が差し込まないほど深くて濃いこの森が、なんとなく薄明るくなったり暗くなったりを何度か繰り返していたような気はするが、もう自分がどれぐらい駆け続けているのかよくわからない。


「っ!!」


 地表にむき出しなっていた木の根に足を引っかけて、転びそうになるのを男はなんとか持ち堪える。


 どくどくとうるさい鼓動が酷く煩わしい。それを抑えるように、ぎゅっと胸のあたりを掴んで、男は恐る恐る後ろを振り返れば、誰の気配も感じはしなかった。


 それに安堵した男は、小刻みに震えている自身の体を抱こうとしたその瞬間、息を飲んだ。


 その右手の甲には、べったりとついた血。


「う、あ…っ」


 ごしごしと男はすぐにその血を自身の服で乱暴に拭った。すると、綺麗になった右手のかわりに赤く染まった腹部。


 ガタガタと音を立てて奥歯がかち合う。


 血は全て拭ったつもりであったのに、まだ残っていたのかと男は自分の体を見渡した。


 返り血で血まみれになったローブも手袋も、自分がずっと使用していた愛剣も、その全てを国を出る前に捨ててきた。


 ◇


 男は、初めて人を殺した。

 

 幼い頃から行っていた訓練とはまるで異なるそれに、気が狂いそうなほどの圧迫感が重くのしかかって、今にも押しつぶされてしまいそうだった。


 一体、あの戦いで自分はどれほどの命をこの手で奪ったというのだろうか。


 自らの剣が人に食い込むあの生々しい感触と、むせ返るような血の匂いが鮮明に蘇る。


 「うえ…っ」

 

 こみ上げてきた吐き気に、堪らず嘔吐すれば、数日の間森の中を逃げ惑っていた自分の胃の中には何も入っていなかったようで、少量の胃液が出ただけだった。


 その苦しさから滲んだ涙を拭いていると、ふと、誰かの声が聞こえた気がして、男は来た道を振り返る。



「―――――っ!!!」


(ど、うして)


 そこに見えたのは、先の戦いで殺したはずの敵軍。そして、自らの指揮によって全滅した仲間達の姿。血塗れた彼らの悲鳴と憎悪の視線が刺さって、ひゅっと息が止まった。


 確かにこの手で殺したはずの相手が、この目で死を確認した仲間達が何故。


 即座に身を翻し、がくがくと震える足になんとか力を込めた男は、何かに追われるようにしきりに背後を振り返りながら、再び森の中を駆けていく。



はじめましての方もまたお会いできた方も、ここまで目を通していただきありがとうございます。

作者にも忘れたい黒歴史があります。そんな記憶を本当に忘れてしまったことした主人公の物語です。

小説家になろう初投稿で手探り状態ですが、よろしくお願い致します。

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