03
建物の中の一際大きなドアの前まで来るとバスチャンがノックをして中からの返事を待った。
中には三つの気配がした。
三つとも知った気配だったので特に警戒しなかった。
返答後、中からのドアが開いた。
中に入ると思った通り、この部屋の主が愛妻さんといちゃラブしていたので部屋を出ていこうとした。
その前に部屋の主がバスチャンに怒られていた。
いつもの事と思いながら終わるのを待っていると、百合さんの気配がして抱き締められた。
ちょうど鼻の位置に胸がフィットした。ちょっ……百合さん……苦しいです。
百合さんの腕を叩いたけれど離してくれなかった。
少し緩めてくれたので息ができるようになった。百合さん……いつもみたいに急にターゲットを変更しないで下さい。
「こらっ澪!! それは俺のモノだから触らないの!! 俺だけの特権なんだぞ!! いいだろう!? だから早く離れなさい!!」ほら、いつも以上に正稀さんが煩くて鬱陶しくなるんですから。
お世話になっているが、この時ばかりは本気で転職を考えてしまう。ほら手をシッシッて……えっ、帰っていいの!?
それでも百合さんは離してくれない。
「百合様!! 澪お嬢様が出ていかれますよ!?」
京さんが言うと百合さんは、やっと離してくれた。
「じゃあ今度は俺の番だ!! さあ澪おいで!!」
手を広げながら待っている正稀さんを無視した。
すると椅子から立ち上がって、こっちに来ようとしたところを京さんに止められ怒られていた。
『賑やかだけど帰ってきたんだな』と思った瞬間だった。
◇◇◇
それからの正稀さんは京さんに怒られる事もなく今後の事を真面目に話していた。
ただ時々鬱陶しかったけれど、それらは全て無視をした。
百合さんは、さっきのもう一つの気配の持ち主の瑠那さんと別室にいた。
ちなみに瑠那さんは京さんと皐月さんの娘だ。
話終わって京さんに続いて部屋を出る時には再び、いちゃラブしていた正稀さんと百合さん。
この後、京さんは私が住むマンションに案内してくれるらしいのです。
隣には瑞希が勉強のために一人で暮らしているそうです。独り暮らしがしたかったらしいのですが、よく許可しましたね!?
話を聞いてると納得しました。
まず瑞希のために新しく建てられたマンションには常駐のスタッフが大勢いるそうだ。
お医者さんも、そのうちの一人だそうで体が丈夫になって入院しなくなっても、いざという時のためらしい。
このお医者さんも正稀さんのお姉さんが経営している病院のスタッフ。
そしてフロントがあり許可された人しか居住スペースには入れないというらしい。
そのフロントには朝から夕方までは皐月さんで、それ以外は慧さんが担当しているらしいのです。何この防犯の徹底ぶり!?
ちなみに慧さんは瑠那さんの弟で河西家は全員、黒帯持ちで瑠那さん以外は敵にしたくないタイプです。
そんな所に、これから行って住むらしいのです。
自分で見つけるからと断っていたのに「瑞希が楽しみにしている」の一言で住む事が決定した。
◇◇◇
これから私が住むというマンションがある場所に到着したらしいのです。えっ、マンション??
今、私の目の前にはパッと見ても何階建てか分かりにくい豪華なホテルみたいな建物があった。
ちなみに正稀さん達が住む本家の門まで歩いて数分。
門までの理由は屋敷までは、さらに距離があるから。
全て最新式らしい、その建物の中に入っていく京さんの後に続いた。
中には皐月さんが笑顔で迎えてくれた。
中も広くて綺麗だった。
その手にはカードと鍵を持っていた。
京さんから連絡をもらったのか、マンション付近に設置されてるカメラをチェックしていたのだろう。
挨拶をして部屋まで案内してくれた。
その道中いろいろと説明してくれた。
どうやら、このカードはフロントを通さなくても直接、部屋に入れる専用の鍵らしいのです。
こっちでも再び仕事をしようと思っている私には、うってつけである。
それ以外では皐月さんが持っている鍵が必要になるらしいのです。
他にも仕事があり忙しい二人には悪いと思い要点だけ聞いて案内を断ろうとした。
「これも私のお仕事なのですよ!? それとも澪様は私の仕事を取り上げるつもりなのですか!? そして怠慢だと言ってクビになさるつもりなのですね!? 今の世の中、私みたいに年を取った人の再就職は大変難しいのを知っておられますか!? それなのに
「ごめんなさい!!」」
ここは素直に謝っておいた。
人の話は最後まで聞く私が、この時ばかりは別だった。
じゃないと今みたいに笑顔で長々と何時間も聞く羽目になる。
皐月さんには誰も口では勝てない。
◇◇◇
今、部屋の中には私一人だけ。
つい先程、案内が終わったのでお礼を言って別れたところだ。
部屋の中の感想は無駄に広かった。
だけどモノクロで落ち着いた感じは私好みだった。よかった。
昔、正稀さんに乙女チックな部屋にされた時は家に帰らなかった。
結局、皆から怒られた正稀さんが部屋を元に戻した後、正稀さんに懇願されて帰った。
皐月さんの話では今回も、そうなりそうだったのを京さんが止めてくれたそうです。ありがとうございます。
その京さんは私の部屋を案内している時は外で待っていた。
皐月さんいわく「いくら知っている人でも、そう簡単に部屋に上げてはいけません!! 男は皆、狼なのですよ!?」だそうだ。私、別に気にしませんし返り討ちにしますから大丈夫です。
だけど、その時の皐月さんの笑顔が怖かったので素直に頷いておいた。
他人にも自分にも、いろいろと厳しい皐月さんであった。
使い勝手のいいように少ない荷物を片付けた。
あまり物がないので、すぐに終わった。
時計を見ると瑞希が帰ってくるまで時間があったのでパソコンで調べものをする事にした。
◇◇◇
瑞希が通っている高校の事を調べた結果、分かったのは徒歩で通える普通の高校だという事だけ。ふぁ〜。
学問や運動など特化している訳ではないが個々の個性を大切にしている高校みたいだ。ふぁ〜〜。
だから不良と呼ばれる生徒もいるようだが、それも個性になるらしい。ふぁ〜〜〜。
仕事が終わり、そのまま帰国し正稀さんに会って疲れも眠気もピークのようだ。
もともと気を許せるところでしか眠れないので機内でも寝ていない。
少し眠る事にした。