02
瑞希と出遭うまでの私には何もなかった。
親も----、生きる希望も----、名前さえなかった。
その日その日をただ何となく過ごしていた。
これからも、こんな毎日が続くんだと、何も変わらないだと思って疑わなかった。
そもそも、これが当たり前だと思って生きてきたので異常だとは思わなかった。
考える事さえしなかった。
その時の私には全てがモノクロだった。
カラーの時もあったが、それらは全て敵だった。
そんなある日の真夜中。
ただ誘われるように降り立った所が病院の屋上だった。
そこに瑞希がいた。
この時の私には、この出遭いが私の一生を変える運命だとは思わなかった。
きっと瑞希は大層な事をしたとは思っていないだろう。
だけど私は救われた。
当時の瑞希は入院中していた事もあり私より体が小さかった。
だけど私が、ここを発つ前に会った時は、あまり差がなかった。
私の身長は、あれから変化はみられないから瑞希の方が高くなっているだろう。
連絡は、いつも電話だったから正確には分からない。
だから会うのが楽しみだ。
そんな瑞希は国内だけでなく国外にも有名な習志野家の一員だった。
人に弱味をみせない事でも有名な習志野家の人達は瑞希に弱かった。弱みをみせないのでは!? まあ私も人の事は言えないのだが。
あまりワガママを言わない瑞希がお願いした事。
それは私を助け出してあげてほしいと。
それからの習志野家の人達の行動は早かった。
あっという間に助け出された私に瑞希は名前を付けてくれた。
「零」と呼ばれていたから「【零】+【瑞希→みずき→水→シ】=【澪】」だそうだ。
その日から私は習志野澪になった。
瑞希は年齢も分からなかった私を妹がほしかったという理由で妹にしたかったようだけど、それは丁重に断っておいた。
だけど時々、私を妹と紹介している時があるのだが気にしない事にしている。
助けてもらっただけでも感謝しているのに、それ以上は生きてるうちに恩が返せなくなってしまうし迷惑をかける事になるかもしれないと思ったからだ。
だから一緒に住んでいて名字は同じでも戸籍では遠い親戚になっている。
そして少しでも役に立つようにと正稀さんの仕事を手伝っている。
仕事の内容は簡単に言うと悪い噂のある組織の内情を調べたりする事。
最初は渋っていた正稀さんだったけれど認めざるを得ない、ある事件が起こった。
その事件というのが瑞希を誘拐する事だった。
その計画をいち早く掴んだ私は企てた集団を全て潰した。
結果、未遂で終わった。
それからは特に何も言われなくなった。
むしろ逆に協力的になったように感じるほどだ。今のご時世どうなるか分からないから。
そして新たな仕事に移ってから海外を転々として、かれこれ3年になる。
仕事が予定より早く片付いたので、そのまま連絡もしないで急に帰ってきたというのにバスチャンが迎えにきた。
さすがである。
それに私の性格を分かっているので、その辺りを何も言わないバスチャンにも感謝だ。
今の私は正稀さんか百合さん----瑞希ママ----か瑞希に会うまでは仕事モードのままだ。
だから「セバスチャン」と呼ばれるのを嫌うバスチャンが許してくれている。
ちなみに日頃の私は「京さん」と呼んでいる。
正稀さんが以前、冗談で呼んだ事があった。
その後、暫く正稀さんを見なかった。あの時は平和だった。
後日やつれた姿で帰ってきた正稀さん。なのに、いまだ懲りずに呼んでいる姿をみる。
仕事は、できる人なのに本当に残念だ。
◇◇◇
車が止まった。
どうやら着いたようだ。
外からドアが開けられたので降りた。
目の前には以前と変わらない建物。
バスチャンと一緒に建物の中に入ろうとした時、再び殺気を感じた。
今度は害があると瞬時に判断した私は、相手の背後に回り肩に跳び乗り急所を押さえ動けなくした。
一瞬だったので相手は、まだ理解していないだろう。
少し力を入れるだけで気絶させられる。
「川井君!? 今すぐに降参しないと気絶させられるよ!?」
「えっ!?」
「今、急所押さえられてるの分かってる!? 動けないでしょう!?」
相手が動こうとして動けない事が分かり闇雲に動いて勝手に落ちた。チッ。
後始末をどうしようかと考えているとバスチャンがゴミ(・・)を受け取ってくれた。
そして何やら指示を出していた。
私は何事もなかったかのように建物の中に入った。