表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

01

 5月某日某時刻の国内某所の空港。ふぁ〜。


 あくびをしながらの数年振りの帰国は何の感慨も湧かなかった。


 『二度と戻ってくる事はない!!』と心に誓ったのに。


 それでも今回その誓いを破ってまで帰国したのには、それなりの理由があった。


 私の命より大切な無二の親友の瑞希(ミズキ)に関する用件だったからだ。


 今の私があるのは瑞希のお陰といってもいいほど感謝しても、したりないほどの恩があった。


 体が弱くて私と出遭った時も入院していた瑞希は今年、高校に入学したと連絡だけもらった。


 嬉しそうだったけれど



 「私と一緒に通いたかった〜。勉強したかった〜。遊びたかった〜」



 など。


 延々愚痴っていたので今回の仕事は正稀(マサキ)さん----瑞希パパ----のせいにした。


 私が二度と戻らないという事も仕事の内容も瑞希は知らない。


 なんとか納得してくれたけれど次に会った時は、いろいろと大変そうだ。


 成長するとともに体も丈夫になるだろうと言われていた。


 だけど入院生活が長かったためか人見知りの激しい内気な性格に育ったらしい瑞希。初対面の時からグイグイ私に話し掛けてましたけど!?


 そんな瑞希を心配した親バカの正稀さんが学校で無理をしないか見ていてほしいという内容だった。


 表向きは。


 実際は



 「勉強に、ついていけてるだろうか!? 友達は、できたんだろうか!? 一人寂しく過ごしていないだろうか!? もしかして虐められているんではないだろうか!?」



 など延々と言い私が気になるように煽った。


 私も人の事は言えないが結果『考えるまでもなく、そちらに傾いた』という訳だ。


 私も瑞希に弱いという事だ。



 ◇◇◇



 この後の予定を考えながら平日だというのにガヤガヤと五月蝿い(・・・・)人ゴミ(・・)の中、印象に残らないよう、あまり目立たない格好をして歩いていた。


 その時よく知った気配がした。


 相手は、こちらに気付いていない様子だったので私も気付かない振りをして素通りしようとした。


 だけど後々面倒な事になると思い、気配に向かって歩いていった。


 途中、殺気を感じた。


 敵意に満ちていたけれど私には害がないと判断し、気にしないで放置する事にした。


 すぐに目的の見知った気配のもとに到着した。


 今、私の目の前には二人の男の人がスーツを着て立っていた。


 一人は後々面倒な事になると思った私の、よく知っている相手。



 「バスチャン。迎え要らない」



 「(ミオ)お嬢様。お帰りなさいませ」



 相手は気にした素振りを見せないで笑顔だった。


 私がバスチャンと呼んでいるこの人は河西(カワニシ)(キョウ)さんで正稀さんの秘書兼習志野(ナラシノ)家の執事でもある。


 瑞希いわく「執事=セバスチャン」だそうだ。


 虫をも殺さないような人好きする、この笑顔が実は曲者だったりする。


 この笑顔からは想像できないほどの冷徹になる一面があるからだ。


 その事を知っている人は誰も彼には逆らおうとはしない。


 逆にその事を知らない、おば様方の目がハートになっていたり「ダンディー」と言われたりしているのをよく耳にしたものだ。


 黒髪に少し白髪が混じっているけれど所作は若い頃から全く変わらないらしい。


 性格なのか無駄な動きは一切しないバスチャンの着ている服はシワ一つなかった。


 それらは毎朝、奥さんの皐月(サツキ)さんが用意しているという。


 愛妻家である彼には35歳の息子がいる自称40歳である。


 ちなみに孫もいるが誰も、つっこまない。


 後が怖いからだ。


 私もその事を初めて会った時に学んだ事の一つだ。


 だけど私にも言い分があったので抗議の意味も込めて返事をしなかった。



 「澪お嬢様! お帰りなさいませ!」



 するとバスチャンは私が返事をするまで同じ事を繰り返し笑顔で言う。


 しかも段々と強調してくるから質が悪い。


 ちなみに「お嬢様」と呼ばれているが私は、お嬢様ではない。


 瑞希の家に居候させてもらっている関係で、ずっと「お嬢様」と呼ばれているだけだ。


 やっぱり今回も無駄だったかと諦めて返事をした。


 私は常々【京さん】ではなくて【()さん】だと思っている。


 もちろん思っているだけだが。


 ついでに正稀さんがいる所には自分で行く事も伝えた。


 さっきから知らない、もう一人が煩わしかったからだ。



 「何を仰いますか!? もし不測な事態が起こったりでもしたら!? それに瑞希お嬢様からも、くれぐれもと仰せつかっておりますので」



 私が瑞希に弱いのを知っているので、ここぞとばかりに大袈裟に言う。


 それに、いつの間にか私の鞄を持っているので結局、黙って付いて行く事にした。


 少し歩くと外に出た。


 そして私達の前に一台の車が静かに止まった。


 殺気がいつしか嘲笑に変わっていたけれど私は、そのまま気にしないで車に乗り込んだ。


 私の事を知っているバスチャンも特に何も言わなかった。


 車内では誰一人口を開かなかった。


 ので私は少し昔を思い出していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ