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恵みの乙女  作者: 真豚
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第4話

残酷描写入ります。ご注意ください。


長剣を振りかざして、切り掛かってくる相手をいなし、胸元から取り出した短剣で迎え討つ。


ざくり。


「ぐあああああ」



心臓のあたりをぶっ刺し、引く抜いた際に血が噴き出した。痩せた男が倒れると、脇から出てきた大男が鈍器を振りかぶるってきており、乗っていたバギーを足で蹴った。重心が保てなくなった大男が後ろへ下がっていく。

背後から飛んできた短剣を振り落し、前方からの弓矢を叩き割る。


超人じみたクラウスの戦いを頭上に感じながら、私はひたすらに屈み込み、鳥にしがみつくので精一杯だ。



バクバクと鳴る心臓に、腕が震える。



飛びかかってきた金髪の男が叫ぶ。



「女神はこの国のものだ!神殿が独占するなど、もってのほかだ!女神を返せ!」



「神殿のものでなくても、王のものでもあるまい!」



金髪の男の剣が外れて、クラウスのフードの端を切る。


苛ついた金髪の男はまだ叫ぶ。



「だまれ!国のものは王のものに等しい!たかが、何千年も前からあるというだけで、戦にも出ず、飯ばかり食らい、さして効力のない紙切れで民を誑かすお前らに女神を保護する資格などない!」



「隣国の土地を羨み、我儘欲しさに罪のない民を斬り殺す貴様らに、命のかたまりが守れるというのか?私利私欲で政を血生臭いものした貴様らに!奪いこそすれ、育くむことなど出来ぬ貴様らにズキを渡せるものか!早く飼い主の元へ帰れ!!」



隙をついたクラウスの短剣が、金髪の男の喉元に突き刺さる。



血肉が引き裂かれる音。

叫び声、怒声、断末魔。

飛び散る血の塊。



「怯えるな!」



クラウスの大きな手で肩を揺さぶられる。



剣がぶつかり合う。


誰かの命が耐えていく。



わたしの力が欲しいから?



「あああああああ!!!右腕が!俺の腕が!」



わたしの力が一体何になるというの?



「おのれ!トゥプローの神官ごときに!」




相手の体の一部が無くなっても戦いは終わらない。




クラウス、その人はもう腕無いよ。



ねぇ、もういいでしょう。



幾らの人を刺した?



どのくらいの腕を切った?



赤黒い液体が、わたしの背中に斑点をつくる。




ねぇ、守るってなに?





こんなの、日本にいたときには無かったよ。

命のやりとりなんて、紛争地帯のニュースやサバイバルゲームの映像でしか知らない。


知りたくない。



抱え込んだ頭の中で、叫び声が充満する。



「ズキ、ズキ。ズキ!蔓を出せ!蔓で体を守るんだ!奴らはお前まで半殺しで連れて行くつもりだ。」



敵の攻撃が変わったのか、クラウスが焦ったように肩を揺さぶる。



「…ない。」



「あぁ?!聞こえないぞズキ!」



カンッカンッガッグキッカンッカン


疲弊してきたクラウスの息が荒い。



「…ない、…出ないの!こわくて、蔓が萎れてしまうの!」



「阿呆が!泣いても意味なんか無い!出せ!」



「おやおや、一人の癖に余裕ですねえ?!」


「くっ!今度は飛び道具かよ!」



シュンッ華麗に後ろへ下がった神経質な男から何本ものナイフが差し出される。



「標的は大きめなほど刺さりやすいものです」



「ズキ!早く蔓を!」


「無理だって!ねぇ、もうやめようよ!あたし王様の所に行くから?ね、」




ひとを、ころすのやめて。




「馬鹿な娘だな」



耳元で聞こえた甲高い声に、顔を上げた。



黒いフードから覗いた横顔はまだ幼く、白い肌には血が付いていた。


ちらりと寄越した目の色は真っ赤だった。



「お前のせいで、こいつ死んだけど?」



口の端についた血を舐めながら、天気を聞くくらい軽い調子で、



真後ろから倒れてきた人物を指差した。





「…ズキ……。蔓を、出すんだ。」



「クラウス?」



重たい体を支えようと手を差し出せば、硬い金属物に触れる。




見れば腹に短剣が刺さっており、切っ先から血が滲み出し、白いローブを染めていた。




「クラウス!いや!いやよ!死なないでよ!私のこと守るって言ったじゃない!」




わたしのせいなの?



わたしがやめてって言ったから?



蔓を出せなかったから?



わたしがクラウスの言う通りにしなかったから?



端の破れたフードが風に舞い上がり、クラウスの顔が露わになる。


浅黒い肌に、彫りの深い、精悍な顔立ち。


形の良い眉は苦渋に歪められ、薄く開いた瞳は、蔓と同じ深い緑色だった。


額に浮かんだ汗の雫をローブの袖で拭うも、赤茶色の短髪から止めどなく汗が流れてくる。



「ねぇ、クラウス、いやよ!目を閉じないで!あなたの顔を初めて見たのが死に目なんて嫌よ!」



体に刃物が刺さった時は安易に抜いてはいけないと聞いたことがあるが、この短剣が憎くてたまらなく引っこ抜いてしまいたい。



「こんなもの!」


刺さった短剣を握る手を、クラウスの手がぎこちなく触れる。




「俺は、いい。」





町で繋いだはずの大きな手は、驚くほど冷たくなっていた。











「…ズキ、生き…ろ」









薄い唇が、にやりと軽薄そうに歪んだ。












































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