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恵みの乙女  作者: 真豚
3/6

第3話

後半少し残酷描写入ります。


目を覚ますと、天井に蔓が巻きついていた。


よく見ると割れ目さえできている。



「なんという生命力」



ぽつりと呟くと、「そうだな」と返事が返ってきた。




…は?



ベッドの横にクラウスが立っており、左腕にガシャンと腕輪を付けられた。


え、なにこれ。



「抑制具だ。すぐにここを出るぞ。これを着ておけ」



寝転んだ腹に薄手のブラウスとズボン、白いローブが投げ捨てられた。



服 ?



そういえばなんだかスースーするような?




「うぎゃあああああーー!!」



着てなかった!そうだセーラー服脱いだんだった!




というか、



「クラウスのえっちいぃいいい!!」



叫んだときにはもう彼はいなかった。

許さんぞ。乙女の下着姿は高いのだぞ!




*・゜゜・*:.。..。.:*・'*:.。. .。.:*・゜゜・*



天井に伸びた蔓は廊下にまで伸びようとしており、クラウスが短刀を取りだし、切っていた。


部屋の蔓まで切る時間が無いらしく、小さな窓から身を乗り出し、蔓を掴んで下へ降りた。



外はもう日が暮れていて、群青の空が広がっていた。


来たときとは違い、裏側なのか、厩戸ならぬ鳥厩戸があり、クラウスが鳥を引き連れてきた。



クラウスに持ち上げられて鳥に乗せられ、表の喧噪から離れた裏通りを進む。



遠くなる宿屋。


給仕の女性に別れを告げたかったな。




薄暗い道に建物に取り付けられた、灯台がぼんやりと光る。




ふと、左手の腕輪を見れば、金の細工が施されており、クルリと回せば、蔓の紋様が描かれていた。



「お前は、蔓そのものだ」


クラウスが耳元でささやく。


私は蔓じゃなくて人間だけれども。



「いのちの塊ともいえる」



「意味わからないんだけど」



「まだわからないのか?」



抱え込む腕の力が強まる。


お腹に圧を感じながら、気づいてはいるけれど、認めたくない現象に目を瞑る。



手で触れたクラウスのローブの上から、細い蔓が生えてきていた。閉じた蕾から花が咲く。




「わかる、けど、わかんないよ」



絞り出した声は小さい。



「やはりただの抑制具では効かんか。宿のものにお前の力を気づかれた。欲にまみれた者がお前を狙うだろう」



「クラウスだってその一人なんじゃないの?わたし、どうなっちゃうの?」




自分が人間ではないような気がしてきて、両手で体を支える。


掴んだ手から蔓がどんどん溢れていく。


その様子にクラウスがぐっと息を呑む音が聞こえた。



「おい、おちつけ。俺はおまえの味方だ」



「証拠なんてどこにもない」



「証拠なら、ここにある。袖をまくってみろ」



促されて、腹にあるクラウスの袖を捲る。



「なっ、なにこれ」



クラウスの太い腕には、蔓の入れ墨が手首からのびていた。



「上位の神官は皆腕にこの印がある。蔓は教会のシンボルだ。シンボルであるお前を守るのが神官の役目だ」



「なにそれ。」


「遥か昔、この国がまだ東の半分しか領地が無かった頃、オアシスが消えた砂漠に一人の女性が現われた。見慣れぬ格好の彼女が踏みしめた大地からは草木が生え始め、恵みの雨が降り出し、川が作られた。」



「私、雨降らせてませんけど」


「まぁ、それは後付けだろう。彼女がもたらした恵みに感謝した人々は、神殿を造り、彼女が何不自由なく過ごせるように神官を置き、彼女を神のごとく崇拝した。」


「私、神さまなの?」


「下着一枚で寝る女を神だとは認めない」


「なっ、乙女の下着姿を見ておいて!」


「ともかく、彼女の話は伝承として国民に広く受け入れられている。つまり、蔓が発生したのを目の当たりにした者は、ズキが彼女、”恵みの乙女”と認識するのが必然だ。」


「認識されたら?」



「認識されたら…。クッ、追いつかれたか!」


「へ?」


クラウスが言うのと同時に、無数の矢が脇に飛んできた。


パシン、バシン、と外れた矢が地面に突き刺さる。


クラウスは手綱を思いっきり振り上げ、鳥の体に打ち付け、速度をあげた。



すると今までのが嘘みたいに、上下に激しく揺れたため、必死に鳥の毛にを握ることになった。



「握るなら手綱にしろ」


そんな無茶な、毛を握ってるんですけど?!


向かい風に髪の毛がたなびいて、クラウスの腹辺りにパシパシ当たる。



「矢を射返せねばならん」



クラウス言うが早いか、毛を握る私の手に無理やり手綱を滑り込ませると、背中から弓と矢を引き出し、つがえる。


タッタッタッタと鳥が走る度に、お尻に振動が来て浮いたりする中で、クラウスは両足で鳥の体を挟み、がっしりと座っている。



つがえた矢を標的に合わせると、ぱっと離し、矢は勢いよく暗闇へ放たれた。


「ぐああぁ」


遠くから断末魔のようなものが聞こえ、また一本、また一本とクラウスは矢をつがえていく。



パシン、パシン。



見えない敵に着実に矢が刺さって行く。


幾つもの断末魔や焦った声に耳を塞ぎたくなる。

手綱を強く握ると、そこから蔓が生えてきていた。


「おびえるな。急所は外している」



ぐっと噛み締めた唇が痛い。



「一応、神官だからな。殺生はしない」



冷たい声に、さらに手綱を握りしめた。



「あのひとたちは誰?」



「王の犬だ。」



「王様がわたしを狙っている?」



「あぁ。財宝よりも何よりもお前を欲しがっている」



なぜ、と聞き返す前に「きゅるるる!」と鳥が鳴き出し急停車する。






「女神を守るにしては、いささか気軽なもんだな」

「トゥプローの神官一人とは、王も見縊られたものよ」

「大人しく、女神を譲ってもらおうか?」




黒いローブの男が七人、下卑た笑いを浮かべて道を塞いでいた。























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