第3話
後半少し残酷描写入ります。
目を覚ますと、天井に蔓が巻きついていた。
よく見ると割れ目さえできている。
「なんという生命力」
ぽつりと呟くと、「そうだな」と返事が返ってきた。
…は?
ベッドの横にクラウスが立っており、左腕にガシャンと腕輪を付けられた。
え、なにこれ。
「抑制具だ。すぐにここを出るぞ。これを着ておけ」
寝転んだ腹に薄手のブラウスとズボン、白いローブが投げ捨てられた。
服 ?
そういえばなんだかスースーするような?
「うぎゃあああああーー!!」
着てなかった!そうだセーラー服脱いだんだった!
というか、
「クラウスのえっちいぃいいい!!」
叫んだときにはもう彼はいなかった。
許さんぞ。乙女の下着姿は高いのだぞ!
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天井に伸びた蔓は廊下にまで伸びようとしており、クラウスが短刀を取りだし、切っていた。
部屋の蔓まで切る時間が無いらしく、小さな窓から身を乗り出し、蔓を掴んで下へ降りた。
外はもう日が暮れていて、群青の空が広がっていた。
来たときとは違い、裏側なのか、厩戸ならぬ鳥厩戸があり、クラウスが鳥を引き連れてきた。
クラウスに持ち上げられて鳥に乗せられ、表の喧噪から離れた裏通りを進む。
遠くなる宿屋。
給仕の女性に別れを告げたかったな。
薄暗い道に建物に取り付けられた、灯台がぼんやりと光る。
ふと、左手の腕輪を見れば、金の細工が施されており、クルリと回せば、蔓の紋様が描かれていた。
「お前は、蔓そのものだ」
クラウスが耳元でささやく。
私は蔓じゃなくて人間だけれども。
「いのちの塊ともいえる」
「意味わからないんだけど」
「まだわからないのか?」
抱え込む腕の力が強まる。
お腹に圧を感じながら、気づいてはいるけれど、認めたくない現象に目を瞑る。
手で触れたクラウスのローブの上から、細い蔓が生えてきていた。閉じた蕾から花が咲く。
「わかる、けど、わかんないよ」
絞り出した声は小さい。
「やはりただの抑制具では効かんか。宿のものにお前の力を気づかれた。欲にまみれた者がお前を狙うだろう」
「クラウスだってその一人なんじゃないの?わたし、どうなっちゃうの?」
自分が人間ではないような気がしてきて、両手で体を支える。
掴んだ手から蔓がどんどん溢れていく。
その様子にクラウスがぐっと息を呑む音が聞こえた。
「おい、おちつけ。俺はおまえの味方だ」
「証拠なんてどこにもない」
「証拠なら、ここにある。袖をまくってみろ」
促されて、腹にあるクラウスの袖を捲る。
「なっ、なにこれ」
クラウスの太い腕には、蔓の入れ墨が手首からのびていた。
「上位の神官は皆腕にこの印がある。蔓は教会のシンボルだ。シンボルであるお前を守るのが神官の役目だ」
「なにそれ。」
「遥か昔、この国がまだ東の半分しか領地が無かった頃、オアシスが消えた砂漠に一人の女性が現われた。見慣れぬ格好の彼女が踏みしめた大地からは草木が生え始め、恵みの雨が降り出し、川が作られた。」
「私、雨降らせてませんけど」
「まぁ、それは後付けだろう。彼女がもたらした恵みに感謝した人々は、神殿を造り、彼女が何不自由なく過ごせるように神官を置き、彼女を神のごとく崇拝した。」
「私、神さまなの?」
「下着一枚で寝る女を神だとは認めない」
「なっ、乙女の下着姿を見ておいて!」
「ともかく、彼女の話は伝承として国民に広く受け入れられている。つまり、蔓が発生したのを目の当たりにした者は、ズキが彼女、”恵みの乙女”と認識するのが必然だ。」
「認識されたら?」
「認識されたら…。クッ、追いつかれたか!」
「へ?」
クラウスが言うのと同時に、無数の矢が脇に飛んできた。
パシン、バシン、と外れた矢が地面に突き刺さる。
クラウスは手綱を思いっきり振り上げ、鳥の体に打ち付け、速度をあげた。
すると今までのが嘘みたいに、上下に激しく揺れたため、必死に鳥の毛にを握ることになった。
「握るなら手綱にしろ」
そんな無茶な、毛を握ってるんですけど?!
向かい風に髪の毛がたなびいて、クラウスの腹辺りにパシパシ当たる。
「矢を射返せねばならん」
クラウス言うが早いか、毛を握る私の手に無理やり手綱を滑り込ませると、背中から弓と矢を引き出し、つがえる。
タッタッタッタと鳥が走る度に、お尻に振動が来て浮いたりする中で、クラウスは両足で鳥の体を挟み、がっしりと座っている。
つがえた矢を標的に合わせると、ぱっと離し、矢は勢いよく暗闇へ放たれた。
「ぐああぁ」
遠くから断末魔のようなものが聞こえ、また一本、また一本とクラウスは矢をつがえていく。
パシン、パシン。
見えない敵に着実に矢が刺さって行く。
幾つもの断末魔や焦った声に耳を塞ぎたくなる。
手綱を強く握ると、そこから蔓が生えてきていた。
「おびえるな。急所は外している」
ぐっと噛み締めた唇が痛い。
「一応、神官だからな。殺生はしない」
冷たい声に、さらに手綱を握りしめた。
「あのひとたちは誰?」
「王の犬だ。」
「王様がわたしを狙っている?」
「あぁ。財宝よりも何よりもお前を欲しがっている」
なぜ、と聞き返す前に「きゅるるる!」と鳥が鳴き出し急停車する。
「女神を守るにしては、いささか気軽なもんだな」
「トゥプローの神官一人とは、王も見縊られたものよ」
「大人しく、女神を譲ってもらおうか?」
黒いローブの男が七人、下卑た笑いを浮かべて道を塞いでいた。