第1話
砂漠の真ん中で、ぼんやりと立っていた。
黄土色の砂が遠くまでつづいている。
「ここ、どこ?」
誰もいない大地につぶやいても、返事はこない。
照りつける太陽の光。
冬服のセーラー服に汗染みが広がる。
「暑い。」
誰もいないのだから、いっそ脱いでしまおうかと思ったが、理性がそれを許さなかった。
まだ、誰かがいるのではないかという期待もあったからだ。
立っているだけで汗が出る。
奪われていく水分に、朝カバンにいれた水筒のことを思い出したが、カバンはどこにも見当たらない。
砂漠にはオアシスといって水場が存在すると聞いたことがある。
熱に浮かされたように、重たい足を引きずりながら砂漠を進む。
一歩踏み出すごとにローファーが砂に埋もれていく。
さらさらとした摑みどころのない砂地は、アスファルトの道とは違い、思うように進まない。
「水、みず」
呪文を唱えたら、出てきてくれるかも。
馬鹿なことを考えながら、一向に見えてこない水場を想像する。
頬から止めどなく汗が流れてきて、袖でぬぐう。
苦労して巻いた前髪はとっくに崩れて、額に張り付き、背中まで伸ばした黒髪は太陽の光を吸収して熱くなっている。
なんて、砂漠に向かない格好なんだ。
熱の籠った服に、下着は汗に濡れてべっとりしている。
水が欲しい。
日傘が欲しい。
暑苦しい服を脱ぎ捨てたい。
ずぼり。
砂地の深いところに片足が引っかかり、重心の定まらなかった体は前に倒れた。
あっ、と気づいたときには遅く、両手をつく前に顔面からダイブした。
「ぐっ、けほっ、けほっ。」
口に入った砂を吐く。
汗で濡れた顔に、砂が着くがもうどうでもいい。
「もう、だめ。」
灼熱の大地に突っ伏し、あまり熱さに一瞬、顔を上げると、遠くに茶色の影があった。
それを最後に記憶は途切れた。
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「おい、起きろ。」
頬を軽く叩かれて、薄く目を開くと、見慣れぬ格好の男がいた。
「んあ?」
白いフードを目深に被った男は、頬から口しか見えず、間抜けな声ににやりと笑った。
少し浅黒い肌に高い鼻筋、薄い唇の周りは無精髭がはえており、瞳は見えないがどことなくアラビアンな雰囲気を感じる。
男の背後からは、緑色の蔓が天にむかってのびていた。
「立てるか?」
立ち上がった男に首を振る。
のどが渇いてヘロヘロだ。
男はまたにやりと笑い、手を差し伸べた。
鉛のように重たい手を伸ばせば、ひょいと引っ張られて抱え上げられた。
驚く暇もなく、ダチョウのような大きな鳥に乗せられれた。
周りを見渡したら、砂地から緑色の蔓が伸びては絡まり、一体化して木のような太さに成長していた。
「どうゆうこと…?さっきまで砂漠だったのに」
「もうじき砂漠はこれらに飲み込まれる。急ぐぞ。」
男が遅れて後ろに乗ると、ダチョウのような鳥が歩き出す。
「…あなたは、だれ?」
二人を乗せているのに、タッタと軽快に跳ねるこの鳥を私は見たことがない。
「ここは、どこなの?」
「話は後だ。舌をかまないようにしておけ。」
背後で男が手綱を強く引き、鳥は走り出した。