WEDNESDAY- A Day Off 16
「春果、稽古は?」
あたしの隣で、また湊人君がイラつきを刺激してくれる。
綺麗な声も中性的な顔も、今はストレス増幅剤でしかない。
こめかみが、ぴくぴく動いてしまうのも致し方ない。
「夏菜の姿が見えたから、ちょっと抜けて来た。夏菜、あの、昨日な・・・」
・・・昨日?
春果君は、申し訳なさそうな顔を浮かべてその場から動けずにいる。
あ・・・
ああ!
昨日ね!
そうね、そう言えば、あたし授業妨害されて怒ってたんだっけか!
あれ、昨日だったっけ!?
何か授業の後からこれまで、彰姉ちゃんやら湊人君やら色々ありすぎてそんなの遥か昔に感じるってか、完ッ璧に忘れていたよ!
ってか、いい、いいよ、そんなの気にしなくて!
それより、あたしと湊人君の間に流れるこの空気を読もうよ。
いや、いい、いい、そこでモジモジしなくって!
「春果、街でバッタリ会ったから、こいつと散歩がてら帰って来た」
ほら、ここにこんなに空気読めない奴がいるんだからさ。
昨日の事気にする前に、まずはこれ何とかしようか。
ってか、おい待て。
街でバッタリって何だ。
あたしが、“わざわざ”Nathanから出て声をかけてあげて、そして(半ば強制的に)ここまで送り届けてやったんだろ?
もっと良い表現があるだろ、お前よ?
春果君は柔らかいチョコレート色の瞳をあたしから湊人君に移した。
動揺の色が少し落ち着く。
「そうなのか?買い物なら、俺か誰かに声かけろよな、湊人。」
そう言いながら、春果君は湊人君に近寄る。
顔が少しむくれてる。
(ฅ`ω´ฅ)
うわー、可愛い!
キティーちゃん!
その可愛い顔が、唐突にこちらに向けられる。
ドッキーン
「夏菜、ごめんな。湊人、究極の方向音痴なんだ。いつもは買い物とか、絶対誰かと一緒に行かせるようにしてんだけど」
春果君は見るからに申し訳なさそうに謝る。
いやいやいや、いいんだよ。
君の所為じゃない。
全てはこの暴君の勝手なる振る舞いの所為なんだから。
焦げ茶のふわふわの髪をなびかせて、春果君はまた湊人君に顔を向ける。
「湊人、迷ったら次は誰かに電話しろよな。お前の方向音痴はどうにもなんないんだからな!」
腰に手を当てて注意するエンジェルの可愛い事。
そして、それに並ぶこの中性的なクールビューティーよ。
ムカつくけど、めちゃめちゃ絵になる。
ムカつくけど。
つくづく顔だけはイイ男だな。
さすが老若男女を虜にする、世界のCHI・O・U!




