WEDNESDAY- A Day Off 15
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そして、武道場まで送ってあげちゃってる訳。
この究極の方向音痴君は、駅から自分の大学まですら自力で帰れないと。
今まで、どうやって生活して来たんだろうね。
この綺麗な顔で、どいつもこいつも、たぶらかして上手に世渡りして来たんだろうよ。
けっ、これだから顔のいい奴はよ!
以前、春果君と一緒に歩いた全くならされてないボコボコの道を、今は湊人君と一緒に歩いてる。
あの時は、桜や他の花が咲き乱れてたけれど、桜はもう散っちゃって花々は柔らかな色合いから鮮やかな色合いにシフトしている。
桜の甘やかな香りが漂っていた道は、ほんの一週間で生の勢いに満ち満ちた刺激的な匂いへと様変わりしていた。
春は全てのものが一瞬一瞬変化する。
だから、一番ワクワクするんだろうね。
冬眠っていたものが、一斉に息づくこの何とも言えない高揚感。
自然の喜びが人間にまで伝染するんだ。
佐保姫も喜んで着飾るし、染め物にも精を出すの、良く分かるわ。
ああ、これでこの隣を歩くしかめっ面のこの男さえいなけりゃ最高なんだけどな。
同じ道を歩くのでも、同伴者によってこうも違うとはね。
ほんと顔だけだな、こいつ。
おばちゃんズ、サイン貰いに行かなくて正解だったぜよ。
何せ、いやいやここまで来てる訳だから、楽しめるものも心から楽しめない。
こいつによって引き出されるイラつきが先行する。
腕からぶら下がってる可愛らしいエコバッグにまでおちょくられてるみたいで、更にムカつく。
落ち着け、あたし。
大人のあたし。
怒ったら負けだ。
怒ったら負け。
怒ったら負けだ負けだ・・・。
呪文のように小声で唱えながら歩く。
「おい、黙れ。気が散る」
あぁ!
まじ、涼しい顔してあたしの隣を歩いてるこいつ!
ぶっ殺してもいいですか?!
あたし、もう我慢ならない。
脳の血管がブチ切れちゃうよ!
あたしは拳を目いっぱい握りしめる。
手の平に指が食い込む。
あたしの忍耐が限界までやって来そうな時、タッタッと軽快な足音が聞こえて来た。
「夏菜!」
馴染み深いハスキーな声が聞こえる。
そのたった一言に、とげとげしていたあたしの心が丸く撫でつけられる。
稽古着姿の春果君がキューティーな顔に満面の笑みを浮かべて、こっちに走って来るのが見える。
エンジェル!
救いの天女が現れ給うた!
ああ、よかった。
あたしが、犯罪に手を染める一歩手前に空気を読める天女様が来てくれて。
あたしは軽く涙の浮かぶ目で両手を広げて、春果君の恒例のハグを迎え入れようと備える。
と、何を思ったか急に彼はピタッと足を止めて、あたし達から一定の距離を取って立ち止まった。
え?
え?
ど、どうしたの?
春果君は気まずそうに顔を曇らせて、チラチラこっちを見ている。
な、何?




