WEDNESDAY- A Day Off 14
「湊人君」
あたしは彼に、ちょっと大きめな声で話しかける。
そしたら、あたしの事無視できないだろ?
「あたし、次の駅なんだ。春果君や他の皆さんによろしくね」
そして、軽く微笑む。
言ってしまうと、スッキリするな。
こいつから離れられると言う解放感か。
肩にかかる鞄をよいしょと、一番安定する場所に落ち着くようにかけなおした。
そして自動ドアの方に身体を向けると、
ドアの上のスクリーンには、あと3分と表示が出てる。
下手なボランティアを試みたせいで、無駄に疲れたわ。
早く帰ってお風呂に入ろう。
入浴剤を何にしようか考えてたら、気持ちがほっこり和んできて、自然とにんまりしてしまう。
「待て」
湊人君の一言で、あたしの幸せな脳内空間が、また少し侵食される。
軽くイラッとして、あたしは首だけ動かして湊人君の方を向く。
「なあに?」
彼の口調を真似て、わざとゆっくり発音してやる。
あたしは、こんな奴隷みたいな扱いされる覚えないんだ。
助けてほしいなら、それなりの態度見せな。
ちょっと顔がいいからって調子に乗るな。
彼は、あたしの態度にイラッと来たのか片方の眉だけピクッとあげる。
Wow wow, 怒った?
ねぇ、怒ったの?
残念、あたし、怒られる筋合いないから。
もう駅に着くし。
「俺は大学まで散歩に付き合えと言った。お前はいいと言った。なのに、ここで俺を置いて降りるのは無責任だ」
訳分かんない発言が彼の口からもれる。
はい?
何か責任問題になっちゃってるんですけど。
「ごめんね。申し訳ないけど、意味分かんない。あたしは一緒に大学に行くとは言ってないし、そもそも君を大学まで送り届ける責任がどうしてあたしにかかってくる訳?」
「俺は送り届けろとは言ってない。散歩に付き合えと言った。そして、いいと言ったのはお前だ」
「だから、ここまで付き合ってあげたでしょう?あたしにはあたしの都合ってものがあるの。あたしの家までの最寄り駅は次なんだから、ここで降りるのが道理でしょう」
「それはお前の都合だ。俺の都合はどうなる?」
「ごめん、まじ意味が分かんないから、もっと分かりやすく言ってもらっていいかな?」
あたしの顔に作り笑いが貼り付けられる。
ちょっと、まじで意味が分かんないぞ。
お前の都合を何であたしが考慮しなきゃなんない事になってる訳?
しかも、それを当然のように言うか?
誰だお前は、お坊ちゃんか?
どこぞのお貴族さまか?
「いいか、お前は大学まで俺の散歩に付き合うと言った。
だから今電車に乗っている。
お前が付き合わなかったら、俺は電車に乗らなかったかもしれない。
なのに、お前はここで電車を降りるのか?
大学までついていないのに?
お前は、先生と言う職業についていながら、自分の言った言葉を守ると言うことすらできないのか?」
あれ?
あれあれ?
何か、ものすごく暴君の発言が口から飛び出しちゃってるぞ?
何か、先生として非常に言い返しにくい論理展開がされちゃってるぞ?
「湊人君」
あたしは意味なく彼の名を呼ぶ。
彼は、また顔を傾け片眉をあげる事であたしの呼びかけにこたえる。
「・・・。」
ド畜生!
言い返せない!
何か屁理屈で言いくるめられた感がある。
ムカつく!
反感こもる目で湊人君を睨みつける。
湊人君も、あたしに負けない眼光で睨み返す。
くそっ。
あたしは目線をそらして地団太を踏んだ。
「おい、公共物に傷がつく」
サラッと低い声で注意される。
更にムカつく。
まじ、何であたしこいつの綺麗な顔に騙されてたんだろ。
ブッコロ、こいつまじいつかブッコロ!
あたしはスマホを出して、ここからの大学の駅までの所要時間を算出する事でイライラを和らげようと務めた。




