WEDNESDAY- A Day Off 11
「俺は迷ってるんじゃない。散歩しているだけだ。稽古前の身体ならしだ」
こんな事言い出しちゃってるよ。
あ、そう、散歩なんですか。
こんな街中を敢えて選ばんでもいいだろうにね。
「あ、そ、そうなんだ。じゃぁ、ひょっとしてお邪魔しちゃったのかな、あたし?もしそうなら、ごめんね」
あたし、本当に良い人だな。
彼のプライドを傷つけないために話合わせてあげてるんだもんね。
彼は、ふんっとか言ってよそを向いちゃってるけど。
ま、そっちがヘルプいらないなら、あたしも無理して押し付ける必要ないし、帰るわ。
Nathanで会計済ませちゃったから、あたしの部屋に帰るしかなくなっちゃったじゃないか。
くっそ、良い事しようとしたのに何か損した気分だ。
あたしは、さり気なくじゃぁ、と言う風に会釈をして、踵を返そうとした。
「待て」
湊人君の短い言葉に動きが止められる。
あたしは、何?と言う風に頭だけ湊人君に戻して首を傾げた。
「お前、大学方面に返るのか?もしそうなら、俺の散歩に付き合え」
それが人にものを頼む態度かよ。
何でヘルプしてもらう側の君が命令形なんだよ。
何て上から目線。
しかも、さも当たり前のようにサラッと言いよった。
イケメンだから許すってか、普通にカッコいいけど、これを普通の男子学生がしたらブッコロ(ぶっ殺してやろうか、あぁん?)だな。
助けてもらう分際で、何様なんだい君はよ?
あたしは、軽く反感のこもった目を上にあげて彼の漆黒の瞳を凝視する。
彼は、眉間に皺寄せ+目を細めて、何か文句あるのか?と言うぞんざいな視線を返してくる。
はい、あくまで君はそういうスタンスで行く訳ね?
オーケーオーケー。
今日は君のそのスタンスに乗ってあげるよ。
何せ朝から妄想を楽しんで、今週しなきゃな仕事も全部終わって、更に君にとって最高に幸運な事にやる気ちゃんの力も強いからね。
「大学に帰りたいの?いいよ、じゃぁ一緒に散歩しながら帰りましょう」
湊君はそれを聞くと何も言わずに、わずかに頷いたかと思うと歩き出した。
お~い、君、言ったそばからさぁ、そっちじゃないよ?
「湊人君、待って」
あたしは咄嗟に彼の腕をつかむ。
その腕が反射的にサッと動き、あたしの手を振り払った。
その一瞬の出来事に、あたしの身体が振り払われた瞬間の姿勢のまま驚きで硬直する。
「口で言えば分かる」
湊人君は、一瞥と共に一言だけ言うと方向を変えて歩き出した。
一瞬後に正気に戻ったあたしは、彼の背中を追う。
・・・あたし、何でこんな奴をヘルプしてあげてんだろ。
何、今の。
まじ、失礼にもほどがあるくね?
ムカついて、下をベーと彼の背中に向かって出す。
併せて彼に向けて拳を握り、中指だけ中天に向かってピンッと限界まで伸ばす。
ざけんな、くそっ。
「おい」
こんな時に限って、タイミング良く振り向いちゃったりするんだよね。
あたしは、また別の驚き(恐怖に裏付けられた)で固まる。
冷や汗がタラッと流れる。
えへ。
てへぺろ。( ;;;´ސު`;;;)
あたしは出されたままの下の位置を真ん中から端にさり気なく移動させる。
彼は、眉間のしわを更に深くし、顔を大きく傾けあたしをねめつけた。
ひぃぃぃぃぃ!
そして、何も言わずにまた前を向いて歩き出した。
うん、こういうのって何も言われない方が逆に怖いよね。
ダメージでかいよね。
やらかしちゃったな。
ま、あたしの本心があらわれた行動だったんだし、いいか。
そう気持ちを割り切ると、次は彼を引っ張らなくていいように、彼の隣に並んで歩いた。




