TUESDAY - Beginner-level English 9
次の学生は男子学生だ。
あたしはまた躊躇せず腕を広げて身体を大きな彼の体にうずめる。
ポチャった弾力のあるお腹が、あたしのお腹に当たる。
何か生暖かい。
オージーを思い出す。
お腹の大きい人、めっちゃ多いからね。
中年太りって言うか、中年じゃなくても欧米系はお腹出やすいんだろうね。
芋と肉と乳製品の摂取量、半端ないもんね。
太るなって方が無理な話だわ。
「あはは、こんなおばちゃんでごめんね。折角なら若い子がよかったでしょ。いつもありがとね」
サラッと言って腕の力を解く。
瞳を覗き込むと、大きな動揺が見て取れる。
顔も真っ赤っか。
20前後の男の子だもんね。
そりゃ、ビックリするよね、急に先生に抱き付かれて。
ま、これも異文化学習だからさ。
あたしはまたニコッと微笑んで、次の学生に向かう。
次も男の子か。
彼は見るからに頬を染めて、来たるべき体験に対して緊張してる。
瞳孔が開ききってて、鼻息も荒い。
あ、ちょっと嫌だな。
でも、差別は良くないもんね。
こうなったら、全員にハグしてやる勢いでいけ、あたし。
あたしは、また同じように腕を広げる。
男子学生の顔が期待で強張る。
と、後ろからその腕を引っ張られた。
身体が大きく傾く。
「パーカー先生」
ハスキーな声があたしの行動を抑制する。
あたしは、怪訝に思って振り返った。
力強い圧力を腕に感じる。
ちょっと。
そんなに握ったら、痣になるよ。
周りの学生たちの視線も集めてるし。
春果君は、そのプリティーフェイスを氷の微笑で飾って言った。
そんな長い付き合いって訳じゃないけど、こんなゾクッと震えさせられるような顔は初めて見る。
「もう時間です」
あたしは時計を見た。
まだ、授業終わりまで15分もある。
疑問を込めた目を春果君に向け直す。
「We still have some more time, I guess?」
あたしは努めて困惑を隠して、クールな声で伺う。
春果君は、あたしが次にハグするはずだった子に向かって詰問する。
「なぁ、お前、もう時間だよな。今日は授業はいつもより早く終わるようになってんだよな」
聞かれた子は大げさなほどにビクッとして、首をコクコク縦に振った。
「は、はい。ナズナちゃんの授業だけ短くなるって」
言い終わらない内に、春果君がギリッと歯ぎしりを聞かせる。
そんな怖い顔したら、可愛い顔が台無しだよ、春果君。
男子学生はひぃっと首を竦めて、先ほどの台詞を言い直す。
「パ、パーカー先生のクラスだけ短くなるそうです・・・」
段々声が尻すぼみになっていく。
春果君は満足そうに頷いて、その隣の女学生に目を向ける。
視線だけで同じことを聞く。
女学生も頬を染めて、小さな声で同じことを繰り返した。
「パーカー先生のクラスは今日は短くていいそうです」
春果君は、また満足気に頷く。
・・・。




