TUESDAY - Beginner-level English 8
「その通りですよ。欧米では日本とは真逆でスキンシップをとても大切にします。ハグやキスが無いと、逆に嫌われてるのかと不安になるし、何より物足りなく感じます」
落ち着いた声でゆっくり、大人らしく噛んで含めるように話し始めた。
でもやっぱり丁寧過ぎる話し方って性に合わないのか、いつもの様に熱が入ってくると自然にあたしの口調が砕けたものになってくのが分かる。
「ハグやキスは、私の母国ではとても大切な愛情表現なの。日本の子は慣れてないから違和感があるんだよね。でも、実際に体験してみると、どうして私たちがスキンシップをこんなに重視するか分かるはずだよ」
そう言いながら、あたしは奥の方の列へ足を進める。
今日、初めてクラスの注意を春果君と彰姉ちゃんから奪った気がして、先生としてちょっと嬉しい。
本来なら、彼らの魅力にも負けないくらいの楽しくて実りある授業をすべきなんだよね、名門・智桜の名に相応しいさ。
あたし、もっともっと勉強しなきゃ。
実力が責任に釣り合ってないんだ。
あたしは、歩きながら腕まくりしていた袖を元に戻して肌の露出を控える。
仄かな体温の温もりを即座に腕に感じた。
今日は、パンツをはいて来てよかった。
いつもはスカートなんだけど、今日は春果君に申し訳ない宣言をしなきゃいけないから、気合を入れるためにピシッとした服装なんだよね。
一番奥まで進むと、あたしはそこで足を止めた。
誰を見るでもなく、女の子が多いエリアに目を向けて、笑顔を崩さないまま言う。
「折角だから、あたしが教えてあげる。みんな、please stand up.」
あたしは学生たち全員を立たせる。
そして、目の前の女の子に向かって唐突にギュッと抱きついた。
彼女の体が、突然の展開に固くなるのを感じる。
ふわっと女の子らしい花のような香りが、鼻元に漂ってきた。
あたしの温もり、感じる?
「いつも、一生懸命英語を勉強してくれてありがとね。あたしの母語の一つだから、すごく嬉しいよ」
あたしは、普段思ってても言えない感謝の言葉も折角の機会だから伝えてく。
腕を離して、目の前の学生の目を覗き込んでニコッと微笑んだら、その隣の女学生に身体を向ける。
そして、躊躇なくまたギュッてする。
「先週は風邪だったの?季節の変わり目だから、いつも以上に気を付けるんだよ」
彼女も身体をカチンコチンに固めてる。
可愛いな。
きっと、すっごく予想外の展開だったんだろうね。
でも、ハグって良いでしょう?
人の温もりって安心するでしょう?
質問したの、あなたじゃないかもしれない。
誰が言ったかは分かんないけど、でも陰険な事しちゃだめだよ。
そんな事したって、自分の自尊心を傷つけて、どんどん卑屈になってくだけだ。
気に入らないなら、正々堂々と勝負しなきゃ。
いつまでたっても、自分の殻の中できゅうきゅうと苦しむことになるよ。
だって、陰険に人を苛めても、自分は何も成長しないもの。
それよりは、面と向かって啖呵切って、そこから学んでくべきだとあたしは思うよ。
あたしの気持ちが、この腕を通して伝わればいいのにね。




