TUESDAY - Beginner-level English 7
全寮制で私生活が覗けないのも、女に媚びず(彼女とかいない)に稽古に打ち込んで、出場するほぼ全部の大会でメダルや賞状を取りに来るのも、その人気に拍車をかけてる。
老若男女を問わず、愛されてるって。
先生方の間でも不動の人気を誇り、履修者の中に彼らの名前があったら、そのセメスターの授業の質が、例年と比較にならないくらい向上するらしいね。
や、分かるけどね。
こんな人気者に自分の授業が選ばれるって、すっごい光栄な事で、先生としても天まで舞い上がれる出来事だよね。
毎週、この上なく綺麗な顔が拝める訳だしね。
実際、遭遇率は激低くて、ぶっちゃけ授業くらいでしかお目にかかれないらしい。
そんだけ朝から晩まで稽古に勉強にって励んでるんだって。
ま、だから6人の内の一番可愛い彼の出席が確約されてる、あたしの初級英語が奇跡の出席人数を叩き出してる訳だけど。
そんな彼らが、ってか春果君と彰姉ちゃんが、何を思ったのか履修してもない授業に出る上に、抱き付いたりとかしてる訳じゃん?
辛うじてでも女にさ。
それも、みんなの前で?
そりゃぁ気に入らないよねぇ。
あたしにとっても永遠の謎だよ。
そして、あたしの中にも僅かでもやましい気持ちがあるからドキッてしちゃったのは事実。
いくら外人扱いされてるからって、日本文化の中で先生が学生(しかも異性)と身体的接触を持っていいのかって話だよね。
ダメなんだろうなって気持ちもあるんだ。
みんな、面白くないだろうなって気持ちもある。
でもさ、あたし人様に顔向け出来ないような事は何一つしちゃいない。
みんな嬉しくないだろうなって思ってるけど、その反面、やっぱり抱きしめられると安心するし嬉しいじゃん?
好かれてるんだって一番強く思えるじゃん?
そっちの方があたしにとっては大切って言うか。
その他大勢に嫌われてもね。
ってか、そもそもあたし嫌われる筋合いないよね。
何故か気に入ってもらってるってだけの話だしね。
あたしの手の中で、パキッと小さな音が響いた。
握りしめてたチョークが半分に割れて、二つのザラザラした割れ口が手の平に食い込んだ。
あたし、陰険なやり口にちょっとムカついてる。
視界の隅に、眉間にしわを寄せて立ち上がる春果君と彰姉ちゃんの姿が写り込んだ。
あたしを庇おうとしてくれてる気持ちは嬉しいけれど、ダメだよ、世界の人気者が不必要な敵を作るような事しちゃ。
それにね、大人はこの程度のガキの対応には慣れてんだ。
あたしは、声のした方に向かって静かに教室内を歩く。
シーンとした教室にヒールの音がカツカツ響いて、重い緊張感と、あたしに対する反感がこの閉ざされた空間を満たす。
教育者として、そんな空気を作り出させてしまった事すら腹立たしい。
あたしのクラス内では、学生たちに精神的な圧迫感を感じてほしくないし、むしろ彼らの心が癒される空間を作り上げたいのに。
どうやったら、この空気を一変させられる?
敵を味方に変えられる?
あたしに何ができる?
あたしは空気を変えるために、教室の奥の方に向かって満面の笑みを投げかけた。




