TUESDAY -Beginner-level English
四月末日・火曜日・午前10時半前;
あたし、ナズナ・パーカーは今現在、果てしない混乱の中にあり、そこはかとない不安にかられている。
何だろう、この景色。
数週間前の思い出が去来するぞ?
最近、落ち着いて来てたんだけどなぁ。
あ、ゴールデンウィーク前だから、ちょっと盛り上がってるとかかな。
日本ってゴールデンウィークが一年の中でも一大イベントなんだよね?
中国でいう労働節、オーストラリアで言う感謝祭みたいな?
あたし、先生なんだよね?
あたしが、あの教室の責任者なんだよね、今?
そのあたしが、何でこんなに躊躇してんのかな。
ってか、クエスチョンマーク使い過ぎじゃない、あたし?
昔何かの文献で読んだんだけど、生粋の日本の文章って全部句点(。)で終わるのが正当なんだよね。
“?”なんて邪道って。
あたし、馬鹿丸出しじゃん。
こんな小さなとこにも、英語との大きな違いが見えるよね。
いやしかしねぇ・・・
どうしよう、あそこに入って中を確認するのが非常に怖い・・・。
何なの、この人だかり。
今日こそテレビの撮影か?
春果君が初めて来てくれた時より、更に多くない?
学生たちよ、悪いがあたしの授業はもう既に十分な定員オーバーなんだよ。
英語の勉強したいなら、来セメスターに改めて履修してくれるかな?
そして非常勤は開講講座の人気が大切だから、他の先生の初級英語じゃなくて、ちゃんと“あたしの”初級英語を選ぶんだよ?
あたしは、漠然とした不吉な予感から足が前に踏み出せず、同じ場所でこのバカげた人だかりを見ながら足踏みを繰り返す。
女学生のキャピキャピした空気に中てられて酔いそうになる。
そんな事してたら、唐突にキャーと言う黄色い声が耳に入って来た。
え、次は何?
声と共に、目の前の人だかりが大きく二つに分かれ、華やかな花道が一瞬で出来上がった。
その道を堂々と通って、こっちに向かって来るキラキラした人影が二つ。
誰だと思う?
ねぇ、誰だと思う?(*´ω`*)
はい、ウザいって思った人の負けー。
とかね、そんなふざけてる場合じゃなくてね。
「夏菜!」
ギューッ
久々の飛びつきハグ。
もう、彼の柔軟剤の匂いもお馴染みになっちゃった。
私たち、身長差もあまりないから、ちょっと顔を上向けるとあたしの顎が、彼の肩にピタッてフィットするんだ。
ふわふわの髪の毛が、ほっぺたをくすぐる感覚も心地いい。
力強い腕と優しい温もりに包まれる安心感を、あたしの身体は覚えてしまった。
暫くはあたしから距離を取ってたのに、先週武道場に行ったからまた気が変わったのかな?




