Skype Talk With Elena (After) 3
「それ本気で羨ましい。あたしも時間の自由がほしい・・・朝ぐったりな時とか、まじ今日こそ会社辞めてやるって心から思うよ」
「でもね、時間に融通が利く分、どこでも出来ちゃう仕事だから、常に仕事の事考えてなきゃいけないんだよ。
一日24時間出来ちゃう仕事だし。授業の他にも、大学内の役員だとか、論文執筆だとか、学会に出席したり、やる事はいっぱいあるんだよ」
「あー、それもそうね。私たちは書類を社外に持ち出せないから、仕事は会社にいる間だけって割り切れるものね」
「そうそう。それに、英玲奈めちゃめちゃ高給取りじゃん。弁護士って儲かるんでしょ?」
「少なくとも、非常勤のあんたよりは儲けてると思うよ」
英玲奈はハハンと自慢げに笑う。
あたしは口をとがらせて言い返す。
「あたしは、可愛い教え子たちに囲まれてるのが幸せなんだからいいんだもんねー」
「うわー、あたし毎日ガキに囲まれて仕事とか、軽く死ねるね。ま、つまり、お互い向いてる仕事に就けたって事なんだからよかったよね。じゃ、あたしはまじで明日のために寝る。あんたも、昼からとは言え、授業準備とかあるんだから、早く寝なよ。おやすみ」
そう言うと英玲奈は、あたしの返事も聞かずに一方的にSkypeを切った。
あたしはしばらく恨めし気に英玲奈の顔から、フレンドリストに戻ったスクリーンと睨めっこしてた。
くそっ、英玲奈はいつも、あたしに“ごめん”と“ありがとう”を言わせてくれないんだ。
英玲奈と話すことで、いつも心に日々たまってくモヤモヤを吹き飛ばしてもらってる。
心から感謝。
あたしの大好きな親友、英玲奈。
時計を見ると、結局時間は二時半になってた。
って事は、英玲奈のとこは三時半。
うわー、七時半には起きなきゃいけないのに、本当に悪い事しちゃった。
話に熱中し過ぎちゃった。
でも、あたしにとってはすごく良かった。
空手部・・・
あたしを必要としてくれる子達がいるのは嬉しいけど、その一方で響君とか湊人君とかは、まじで嫌そうだったし、熱血クラブなんて疲れるだけだ。
適当主義のオージーのあたしには武道なんて最も向いてない分野だと思う。
そして、あたし日本ではもう大変な事しないって決めてんだ。
あたしは自分を何よりも大切にして生きる。
Self-sacrifice (自己犠牲) なんて、ただの偽善だ。
自分をすら大切に出来ないような人間に、他人を大切になんて出来ようはずがない。
断ろう、今度こそ。
何と言われようとも!
あたしに向いているのは、活動が二週間に1回のSave the homeless(ホームレス救出部)とかに決まってる!
そう、あたしの使命は月に二回、ホームレスを救出しに行く事に違いない!
よし、やっとあたしの智桜での使命が分かった。
よかったね、あたし!
さぁ寝よう!
睡眠不足は美容の敵だわ。
あたしは、電気を消すために立ち上がった。
ふわっと肌にかかる風圧で、初めて部屋の中が冷え切ってる事に気付いた。
腕をさすると、鳥肌の感触がざらっと手についた。