Skype Talk With Elena (After) 2
「それに、あんたは一生分の苦労を、もうここ(シドニー)でして行っただろ。もうあんたは自由なの。
辛酸は嘗め尽くしたんだから、そこ(日本)では自分の幸せを一番に考えな」
その言葉に、一瞬、あたしの脳裏を過去の映像が切れ切れによぎる。
それに呼応して息苦しさを覚えた。
視界が暗くなっていく。
止めろ、あたし。
もう終わった事だ。
ここには、あたししかいない。
ここはシドニーじゃない、日本だ。
そしてあたしだけの力で生きていて、あたしだけの事を考えてればいいんだ。
英玲奈はあたしの表情の変化を見て、悲痛な顔をスクリーンの向こうから覗かせる。
「I’m so sorry」
(ごめん。そして、すごく気の毒だって思ってる。)
目を下に向けて心のこもった一言を、あたしに何千キロも離れたところから届けてくれる、あたしの大好きな英玲奈。
あたしの事、何でも知ってて、全てを受け入れてくれてる英玲奈。
あたしはバッと顔を上げて、英玲奈に笑顔を見せる。
何でもない事だとでも言うように。
「やだなー英玲奈、気にしないでよ。英玲奈の言った通り、もう終わった事なんだしさ。
空手部も、そうだよね。あんな癖だらけの男所帯に入ったって、いらん苦労をするだけだよね。春果君には申し訳ないけど、来週の火曜日に授業で会ったら、ごめんって言うよ」
あたしの口が、血の涙が流れてる心とは裏腹にペラペラとまくし立てる。
英玲奈は、隠し切れない感情をにじませた目をあたしに向けて、それでも何も言わずに薄っすらえくぼの見える愛らしい微笑を見せてくれた。
「そっか。
ところであたし、すこぶる眠いんだけど。時差の存在を忘れないでね。日本はまだ二時かもしれないけど・・・」
「あ!英玲奈ごめん!そっちは、もう三時か!あと5時間もしたら出勤?!ごめんね、話し込んじゃった」
やばい、そうだった!
あたしと彼女の間には時差と言うものがあってしまった!
あたしは平に謝るしかない。
たかが一時間、されど一時間。
深夜二時と三時の差は大きいよね。
ひー、英玲奈まじごめん!
「や、いいよ。たまには、あんたも色々吐き出す時間が必要でしょ。でも、あたしはもう限界だから、寝る。あんたはどうすんの?」
「あ、あたしは明日は金曜だから、授業は午後の通訳演習だけなんだ」
「そっか、大学の先生って時間に融通が利くからいいよね。会社勤めは毎日九時―五時の変わり映え無い日々さ」
「そっかぁ。時間の融通って言う目で見たら、大学教師は確かに最高の職業だと思う。
あたしは持ってる授業数も少ないから、月水はオフだし火木は午前中の初級英語だけ。
火曜日は隔週で英文学が入ってるけどね。他の先生と合同で教えてんだ。
そんで金曜は午後二時からの通訳演習だけでしょ。だから、時間はあまり拘束されないよ」




