5 + エンジェル 11
「やー、俺はこんな可愛い子ちゃんなら大歓迎よー。むしろ、同じく募集中の寮監さんにすらなってほしいくらいよー。そしたら俺が、手とり足とり何でも教えてあげるのによ、センセ♡」
チャラい声があたしの怒りをそらす。
「はぁ、お前何言ってんだ。俺がお前を夏菜に近づける訳ないだろ!」
春果君があたしから腕を離して、あたしの前に立つ。
あたしの視界が彼の背中でいっぱいになる。
「あらあら、はるちゃん。だめよ、先生はみんなのものなんだから」
「うわぁ、正論なんだけど、何かお前が言うと気持ち悪い!」
うん、大賛成!
何か今、鳥肌が立った!
「おい、そろそろほかの部員も来る。稽古が始まるから、早く帰れ」
後ろからサラッとした声が流れる。
ん?
何か棘がある?
「あら、本当ね。もうこんな時間。夏菜ちゃん、今日は来てくれてありがとう。うちはこんな感じだから、夏菜ちゃんが来てくれると、とっても助かるわ。無理強いはしないから、考えてみてね。でも、うちのはるちゃんは夏菜ちゃんがうんって言ってくれるまで頑張るかもしれないけど」
姉ちゃんが楽しそうに言い放って、あたしを送り出そうとする。
手の平に春果君の手が滑り込んだ。
「夏菜、今日はありがとう!俺に、外まで見送らせてくれ」
春果君があたしを入り口まで引っ張ってく。
「先生、今日はどうもありがとうございました。また、よろしくお願いします。」
匠君があたしに向かって律儀にお礼をする。
一方で、湊人君は軽く眉間にしわを寄せて立ってあたしを見送ってくれる。
・・・怒ってる?
姉ちゃんは対照的に綺麗な笑顔とともに左手でバイバイしてくれてる。
その右手は、響君が逃げないようにガッシリ響君の肩を掴んでる。
そして、その響君はチラチラ目線をあげては下げての繰り返し。
君は何がしたいんだい?
暴言を吐くチャンスを伺っているのかな?
そして、入り口を通り抜けようとする時に、戸枠にもたれている琉惺君をちょっと見上げる。
「センセ、また来てね♡」
彼はそう言って、チュッとリップ音を出した。
うわー。
超カッコイイけど、うわー。
「夏菜、出る時も武道場に向かって一礼するんだ」
春果君は、また見本を見せてくれた。
あたしも、またそれに倣う。
そして、靴を履いて振り返りもせずに武道場を後にした。
あたしが見えなくなるまで、春果君は武道場の前でずっとあたしを見送ってくれてた。
木に隠れる直前に振り返ったら、まだそこに春果君は立ってて、あたしの視線を感じて、両手を頭の上で大きく振ってくれたから。




