5 + エンジェル 7
ガンッガンッ
キュッキュッ
ガンッッ
キュッキュキュ
・・・。
「えっと・・・」
あたしは、言うべき言葉が見つからずに顔を元の三人の方に戻した。
君たち、あたしにどう言うリアクションを期待しているのかな?
匠君が穏やかな声を武道場に響かせる。
「響、湊人、ちょっとこっち来い」
ピタッ
と、その一言で音が止まった。
二人が全面的に嫌そうな顔を、こちらに見せてくれる。
あれ?
あたし、頼まれてここに来てるんだよね?
あたしが頼んだんじゃなくて。
あたしは、そこはかとない疑問を覚え、あたしを連れて来た子の方へ視線を向ける。
・・・ってか、いないんだけど。
キティーちゃん、どこ行った?
あんたがあたしを連れて来たのに、何であんたはいなくなってて、あたしはここに一人で、こんな居たたまれない気持ちになってるのかな?
おかしくない?
ねぇ、おかしくない?
響君がだるそうにメリッメリッと畳の上を、鈍い音を響かせてこちらに向かって歩いて来る。
その後ろで鏡の仕上げに入る湊人君の姿が美しい。
あ、君は主将命令は聞かないのね?
「悪いな、響。ちょっと紹介するだけだから」
響君は、あたし達からちょっと距離を置いて立ち止まる。
その彼の腕を、姉ちゃんが掴んで引き寄せる。
「あんた、何照れてんのよ。ほら、もっと近う寄りなさいよ」
姉ちゃんが響君の肩を抱きながら言う。
スタイリッシュな姉ちゃんの隣で、(ムカつくけど)こいつの私服もすっごく決まってる。
七分のデニムパンツには前にも後ろにも大きなポケットが両側に縫い付けてあって、細身の足を緩めに覆うラインがすごくカッコイイ。
上もシンプルな美女の黒いプリントTシャツに、首から掛かるゴツゴツしたペンダントがいい味出してる。
(ムカつくけど)二度見しちゃうほどの綺麗な顔立ちだから、赤って言う奇抜な髪色でさえ、こいつのためにあるのかってほど似合ってる。
極めつけは、片耳から下がってる大きなペンデュラム。
ああ、カッコイイ。
黙ってれば、まじでカッコイイ。
残念。
何て残念なんだ。
「ちょ、離せよ。俺はブスの顔を間近で見たくないだけだ」
ああ、これさえ無ければ。
しかしカッチーンと来るよね。
確かにあんたはカッコイイ。
でもね、あたしだって平凡とはかけ離れた美を備えてるんだよ。
そして、そんな美女に向かって言ってはならない暴言を今日君は何度吐いた?
君は本当にあたしの逆鱗の場所を熟知しているらしいね。
そして、それに触れたくて仕方がないらしいね。
「ブスブスうっさいんだよ、ひじき!あんた目、悪いんじゃないの。こんな美人が、今時どこにいるって言うのさ?!」
「ああん、俺に口答えすんな!ってか、ひじきって何だよ。俺は食い物じゃねぇって言っただろ」
「はんっ。あんたなんか、ひじきで十分さ。その林檎頭もひじき色に染めてやろうか?!そしたら、稽古着ももっとピシッと決まるだろうよ」
「てめっ・・・俺に喧嘩売ってんのか?なめた事言ってっと、ただじゃ置かねえぞ」
「そりゃこっちのセリフだよ!初めて会った時から、なめた口ききやがって。仮にも武道をたしなんでんなら、もっと礼儀をわきまえな!」
響君の手がついに上がる。
やるか?!
あたしだって、ただでやられないよ!
あたしも腕まくりをし、拳を強く握って響君に対峙する。
あたしたちの目から火花が飛び散る。




