5 + エンジェル 6
大きな額縁の下の板の面の上に、これまた大きな男性が、目を閉じて正座をして厳かな空気を醸し出している。
来ているものは、ラフなTシャツとジーンズなのに、何でこんな畏まって見えちゃうんだろね。
「匠、遅くなってごめんね。このおバカちゃん達が外でまたバカな事してたのよ」
お、おい、姉ちゃん。
自分の世界に浸りこんでる彼に、そんなざっくばらんに話しかけてもいいのかい?
しかも、入り口で一礼したかと思うと、躊躇なく彼に向かってってるし。
さすが、あたしの中で今頼りになる男ナンバーワン。
何から何までカッコイイっす。
「夏菜、ここで軽く武道場に一礼して」
あたしも足を踏み出そうとしたら、春果君が優しい声であたしに告げる。
そして、こんな風に、と言うように見本を見せてくれた。
あたしもそれに倣ってペコリと頭を下げる。
あたしのエンジェルは、そしたらまた、あたしの手を引いて姉ちゃんに続いて大きな男性に向かって歩いてく。
もちろん、あたしもそれに引っ張られてついていく訳。
大きい男性が目を開けた。
あ、あの一番右にいた子だ。
彼が目を開けるとすぐに分かった。
爽やかスポーツマン。
体格はいいけれど爽やかな顔立ちのため、こうして面と向かうと威圧感は無い。
彼は彰さんに目を向け、その目を春果君に流し、そしてあたしの上で止めた。
あたしの胸がドキンと跳ねる。
「夏菜先生ですね。春果から話を少し聞いてます。今日はありがとうございます。自分は、智桜空手部の主将の日野匠です」
彼はそう言って立ち上がると、あたしに向かって一礼した。
たくみ君って言うのね。
さすが、主将。
すごく礼儀正しいわ。
「いいえ、こちらこそお忙しい中ありがとう。お邪魔かもしれないけれど、空手部を見せてもらいたいと思って伺ったの」
あたしも優しく答える。
彼と話すと、爽やかだからか、落ち着いているからか、何となくこちらの気持ちも落ち着く。
あたしの緊張が穏やかにほぐされた。
ガラッ
キュッキュッ
ん?
何か、違うところからも音が聞こえる?
匠君と話せて心に余裕が出来たことで、周囲の音も耳に入るようになったんだね、あたし。
あたしは首を回して、音の出所を探る。
畳敷きの奥の方で、熱心に鏡を磨く眩いばかりの美貌を持つ麗しい姿が目に入って来る。
そして、その傍では響君が布みたいなのの巻いてあるサンドバッグ?のようなものに、ひたすらに拳を繰り出している。




