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美女と天女  作者: 美貝
BEAUTIFUL BOYS
26/66

5 + エンジェル 5

武道場に入る前に靴を置くこじんまりしたスペースが設けられてた。


その奥に、武道場へと導く引き戸がどしんと坐ってる。

威厳溢れる黒檀色。


・・・開けるのが怖くなるな。


何か奥にあるって感じちゃうもの、ちょっと覚悟がいるよ?



「夏菜、ここに靴入れてな?」



春果君は、下駄箱を手の平で指し示す。


指で指さないところとか、何気ないしぐさが本当に上品だな。

やっぱ武道だから、そういう細かいところまで空手部で鍛えられてるのかな。


あたしは靴を脱いで、下駄箱に靴を入れた。



「あ、そっちじゃない。ここだってば」



・・・と思ったら、春果君にそれをパッと取られて、春果君のコンバースの隣にピタッと置いた。


何?

さり気ない独占欲?


あたしの胸がキュンと締め付けられる。


春果君は、きっと無意識にそんなのやっちゃってるんだろうな。

並んだ靴を見て、満足気な顔しちゃってるもん。



「あら、あんた生意気ね」



姉ちゃんが春果君の肩を指でトンッと小突いた。


ああ、あの心底解せないと言う愛くるしい顔。


犯罪だ!

これは、もはや犯罪だ!

周囲の人々の心臓をキュンキュンさせて摩耗させて、挙げ句に死に至らしめちゃうであろう重罪だ!


春果君から目が離せないあたしの耳に、姉ちゃんの声が流れ込んでくる。



「あら、あたし達以外には三足しか靴無いじゃない。響のと、この二足は匠とみなちゃんかしら」


「ああ。琉はまだ来てないみたい」


「きっとまた女のとこよ。それか黒魔術でもやってんのかしら。ほんと、あの子だけはどうしようもないわ」



姉ちゃんが前髪をピンであげながらこっちを向き、あたしを武道場に促す。



「ごめんなさいね。もう一人来るはずなんだけど、とりあえず今いるメンバーを紹介するわ。さ、入って入って」



春果君があたしの手を引っ張って、入り口まで導いた。


武道場の戸が開く。




わ・・・




あたしはの口から言葉が消えた。


武道独特のピリッとした緊張感が溢れる場内に、言葉を発する事がひどく無作法に思える。


場内はそんなに大きくない。


武道場に入るのは生まれて初めてだったけれど、恐らく他の武道場と比較しても特に変わるものもない、ごく一般的な武道場なんだろうな、と思う。


半面が板敷で、半面が畳敷きだ。



入って真っ先に目に入る正面の壁上部に『冥冥之志』と達筆で書かれた大きな額縁がかかってる。


あたし、四字熟語すっごく弱いから意味は分からないけれど、でも筆運びからだけでも圧倒される息吹を感じる。


すっごく日本っぽいな。

こっちに帰って来て、今一番日本にいるんだって気持ちになってる。


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