5 + エンジェル 4
「な、な!夏菜、すっげ可愛いだろ!それに、英語ペラペラなんだ。うち、海外の選手との交流もあるし、顧問として適任だろ」
「あら、顧問はもう小林ちゃんがいるじゃない。これまでずっと小林ちゃんがやって来てくれてるんだから、今更変えられないわよ」
「あんな木偶の棒、変えたっていいよ。だって、いつ連絡したって繋がらないじゃないか。あいつに顧問の資格なんかない」
「それでも、小林ちゃんの人徳のお陰で助けられてる部分って、たくさんあるのよ。それが見えないなんて、あんたもまだお子様ね」
兄ちゃんと春果ちゃんの会話を、あたしはいい気持ちでぼんやり聞く。
ああ、疲れが取れるよう。
でも、何だろう、この違和感。
何かが違う気がする。
何かが。
何だ?何だ?
あたしは、じとーっと目の前の二つの綺麗な顔を眺める。
何がおかしい?
カッ (◞≼◉ื≽◟゜;益;◞≼◉ื≽◟)
「あ!姉ちゃんなんだ!」
あ、やべっ、また声に出ちゃった。
あたしのこの胸に秘めとけないところ、何とかならんもんかね。
「おいブス、キモイ顔やめろや」
後ろから本気で嫌そうな声が聞こえる。
「あぁん、あんた誰に向かって言ってんの?この場にはブスと言う単語が相応しい人間なんて一人もいないだろうが!」
あたしは、顔だけ振り返る。
「こっち向くな、ブス。気分が悪くなるわ」
何なの、あんた。
まだ会うの二回目なのに、何でそんなにあたしに突っかかる訳?
あたしは、ものすごい形相で響君を睨みつける。
あんた、事と次第によっちゃぁ、か弱いあたしからだって手が出ちゃうよ?
「響、女の子に向かって何てこと言うの!もう、あんたあっち行ってなさいよ。邪魔よ、邪魔」
あたしの隣で姉ちゃんが、シッシと手の甲を響君に向けて指を彼の方に向けて二度払った。
ケッ、と響君は口から短い息を吐き捨てると、こっちも見ずに本当に武道場に向かって歩いて行く。
春果君があたしの方を向いて、申し訳なさそうに言った。
「ごめんな、あいつ、あんまり女好きじゃないんだ。しかも、今日はいつもより何故か機嫌も悪そうだし」
「あんなガキほっときゃいいのよ。それより、夏菜ちゃんって言うのね。あたしは、彰。よろしくね」
姉ちゃんが、今更ながらに自己紹介をする。
「あ、夏菜です。よろしくお願いします」
何故か、あたしの方が敬語になっちゃう。
姉ちゃんは、あたしの顔を見てにっこり笑った。
うわー、カッコイイ。
きれーい。
「春果から、いつも話は聞いてたのよ。来てくれてありがとう。この子、入れ込むと本当に手を抜かないから、あなたも手を焼いたんじゃないの?もしそうなら、ごめんなさいね」
姉ちゃんは、春果君の肩をごく自然に抱いた。
兄弟みたいだな。
「えっ、そんな迷惑だなんて。むしろ、いつもクラスのムードメーカーになってくれてて、すごく感謝してます」
あたしは慌てて胸の前で手を振りながら答えた。
あたしの言葉に春果君が、姉ちゃんの隣で嬉しそうに顔を輝かせる。
姉ちゃんは少し沈黙してあたしを見てから、頷いてまた口を開いた。
「もう匠たちには会ったのかしら?春果と響とあたしの他にも来てるはずよ。もう中にいるのかしら。早く中に入りましょう」
彰さんと春果君が武道場に向かって歩いてく。
厳かな建物に向かってあたしも足を踏み出した。
外観からでさえ伝わってっ来るピリッとした緊張感に、身も心も引き締まる思いがした。