5 + エンジェル 3
「あんた達、いい加減にしなさいよ。公衆の迷惑なのよ。もうガキじゃないんだから、子供みたいに喧嘩しないの。大学生としてどう振る舞うべきか、考えなさい。まして、あんた達は智桜空手部の看板を背負ってるのよ」
「うっせーなぁ。これは喧嘩じゃねぇ。チームメイトとの大事なコミュニケーションなんだよ。スキンシップだ、スキンシップ。な、春果」
林檎頭、もとい、ひじき君、あ、また間違えた。
響君がいたずらっ子の顔で春果君の頭をガシガシといらう。
その手を春果君が、うっとうしそうに肘で払ってる。
「やめろよ、触んな、響。お前が悪いんだからな。夏菜に手出すな」
春果君はそう言いながら立ち上がったかと思うと、あたしの方に駆けて来た。
決意こもる表情の、激烈プリティーフェイス。
や、やめてくれ、春果君。
そんな事したら、あの二人の目にあたしが入っちゃうじゃないか。
そして、入っちゃう、と。
うん、分かってた。
あの、響君の反感こもった目。
何で、そんなにあたしを嫌がるの?
そして、兄ちゃんの嬉しそうな目。
Oh wow, 何て対照的!
ここの人たちって本当、極端だな。
何かを極めた人って、その分どこかが抜けてるって言うよね。
大学の先生達も一つの事に集中して来た分、どこか抜けてるってか、一般社会じゃやってけないんだろうなって人ばっかだもんね。
あたしも人の事言えないんだろうけどさ。
空手を極めてるこの子達も、きっと空手にエネルギーを割いた分、どっかが抜けちゃってるんだな。
春果君の背中越しに、そんな事を徒然なるままに考える。
あ、春果君って、あたしと背はあんまり変わんないし細いのに、肩幅は結構あるんだ。
後ろ姿からだけでも、既に只者じゃないってオーラが溢れてるよ。
どうやったら、こんな男の子が育つんだろうね。
先生、教育者としても興味深いと思っちゃうよ。
「可愛い!」
気付いたら、柔らかなボーダーニットに身体をくるまれてた。
ふっ、もう何が起こっても驚かないぜよ。
あたしの常識からは外れたことを、この一ヶ月で既に半年分くらいは経験したからね。
主に、君たち空手部のお陰で。
あたしはニットの中で、ドヤ顔をつくる。
「あんたが、春果の言ってた先生ね!ちょっと良く顔を見せなさいよ」
あたしのドヤ顔が、大きな手に両側から包まれて上を向かされる。
とっさの事に、あたしの表情が固定される。
「あら、面白い顔ね。でも、本当にきれいな色の目。エメラルドグリーンって言うのかしら。宝石みたいね。髪の毛も、地毛でこの色なんでしょう?まぁ、さらさらのふっわふわね。肌もつるつるじゃない、憎たらしい」
綺麗な顔が間近であたしの顔を細かく観察してる。
面白い顔で悪かったな。
両手に挟まれて顔が動かせないんだもん、表情そんな急に変えられないんだもん。
ってか、何だろう、何か違和感がアル。
何か違和感がアルゾ。
「小さい顔。あたしの両手くらいしかないじゃない。鼻も日本人よりちょっと高いのね。ハーフってこんなに違う顔立ちになるんだ?すっごい可愛い。あたしのお人形として連れ帰っちゃいたいくらいだわ。そんで、色んな服着せてみたいし、ネイルとかもやってあげたいわ」
そう言って兄ちゃんは、あたしの顔から手を離し、その手であたしの手を持ち上げて観察する。
「あら、あんた手がちょっと荒れてるわよ。女の子なんだから、大事にしなさい」
兄ちゃんは、肩からかかってる鞄からハンドクリームを取り出して、あたしの手に丁寧に塗ってくれる。
あー、いい匂い。
癒される~。
最高っす、兄ちゃん。
そのままハンドマッサージをしてくれて、あたしの目がとろーん、ってなる。
兄ちゃんは、合わせてご機嫌な鼻歌まで聞かせてくれる。