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美女と天女  作者: 美貝
HARUKA
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熱血・あ・た・し!4

春果君は、少し真剣な顔を覗かせる。


意外。

案外、細かいとこキチッとする子なんだ。

あたしの気持ちを尊重してくれて、ゴリ押ししないんだ。


そういうとこ、紳士だね。

じゃぁ、あたしもその誠実さに応えなきゃだね。



「分かった。いいよ。何時にどこに行けばいいかな」



あたしは春果君に微笑む。

春果君が、あたしの事をちゃんと扱ってくれるのが素直に嬉しかった。



あたしの返事を聞いて彼の顔の輝きが、5万ルクスくらい上昇した。

・・・気がする。


スピリットレスだった教室に輝きが戻ったか!


そして、その輝く光体はガバッとあたしの身体を覆う。

ギューッと力強い腕が、あたしをその中に閉じ込める。


わ、わ、暖かい。

いい匂い。

何だこの安心感と高揚感のごちゃ混ぜになった甘々な気持ち。



「夏菜!ありがとう!俺、すっげ嬉しい!クラブハウスの隣の小さな建物が俺たちの領域なんだけど、場所分かんないだろ?俺、迎えに行くよ。こないだの教室に行けばいい?」



春果君は、あたしをその腕の中に確保したまま、あたしの耳元で弾んだ声を響かせる。

あたしまで嬉しくなって来ちゃうんだけど。



「うん。じゃぁ、あたしあの教室で待ってるから、迎えに来て?」



あたしは春果君の腕の中で、彼の肩におでこをコツンと乗せながら答えた。

春果君の腕の力が一瞬強まる。

そして、抱き付いた時と同じく、唐突に彼の身体が離れた。


あたしは、首を傾げて春果君の顔と正面から対峙する。

突然どうした?

心なしか彼の顔が赤い気がする。


春果君は、ぱっと目を逸らして焦ったように早口で、じゃぁ後でな、と一言声に出すと、走って教室を出て行った。


何だ、急に。

次の授業に遅れそうだったのかな。

急に抱き付いたり、離れたり、走り出したり、慌ただしい子だな。


ま、そんなところもすっごく可愛いんだけどねぇ。

あたしの顔が、にへらっと緩む。


久々に春果君とちゃんと話が出来て心が躍った。

何たって、彼はあたしのエンジェルだし、他の先生方も含めて、この大学に来て初めてまともに話した人だし。


よし!

空手部見学の予定が入っちゃったから、それまでに仕事をある程度片付けとかなきゃだ。


何だかんだで、あのイケメン集団の練習風景を見れるのは楽しみだ。

きっと圧巻なんだろうな。


そんな時に、仕事の事で頭を占拠されていたら、純粋に見学を楽しめないもんね。

だから、心に思うものが無い状態で行きたいよね。


あたしは、弾む気持ちで教室を後にし、あたしの聖域に向けて足を運んだ。


.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o


タッタッタッ。


軽快な足音が聞こえる。その音は徐々に大きくなる。

躊躇なく、あたしの聖域に向かって来てるんだ。


もう数秒もすると・・・



コンコン



来た!

何て予測通りの展開。



「はーい」



あたしは、返事をしながらドアに向かう。

春果君はドアの向こうから、見るからに嬉しそうな笑顔でこっちを見てる。


ここの教室のドアは、どれも上半分はガラスになっていて中が見えるようになってる。

だから、部屋に入って来なくても誰が外にいるか分かっちゃうんだ。


反対もしかりで、外からもあたしが中で何をしてるかはダダ漏れ。

だから、めったな事出来ないんだ、実は。


ま、この辺は研究室区域で、先生か先生に用のある学生やお客さん達しか来ないんだけど、それでも気を張っちゃうよね。



「はる・・」


「お待たせ、夏菜!待たせてごめんな!」



春果君は、あたしが言い切る前に、あたしをぎゅっと抱きしめる。


うん、君、本当にあたしに良く懐いてくれてるよね。

ってか、この二週間、会話と言う会話もせずサラッと授業に出ては帰っての繰り返しだったのに、今日はいきなりどうした?



「じゃぁ、夏菜。行こうか」



春果君は、ワクワクが隠し切れない顔しぐさで、あたしから腕を離し、そのままあたしの手を握った。

こらこらキティーちゃん、それはまずいですぜ?



「春果君、あたしが校内を学生と手を繋いで歩いてたら、教員会議で叩かれちゃうよ」



あたしはさり気なく、春果君の手の中から自分の手を抜く。


彼の気持ちを傷つけちゃわなかったか心配になって、彼の顔を観察してしまう。

些細な事でこそ人って傷ついちゃうから、こんな小さな事にこそ心を砕く。



「あ、悪い、つい」



ほらね、春果君、しゅんとしちゃった。


ごめんね、拒絶じゃないんだ。

でも、社会的にまずいんだ。


君に嫌な思いさせようとして敢えてしたんじゃないんだよ。



「ううん、あたしこそごめんね。早く行こ!あたし、実はすごく楽しみにしてたんだ」



あたしは、空気を変えるために必要以上にテンションをあげて、春果君の顔を笑顔で覗き込む。

春果君も、気持ちをコロッと入れ替えたのか、笑顔を投げ返してくる。



あたし達は、何気ない会話を和やかに交わしながら、空手部に向かった。




そう、その時はまだ、それがあたしの大学生活に大きな変化をもたらす出会いになるなんて、一ミクロも予想してなかったんだ。


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