熱血・あ・た・し!3
「せんせーい、早く授業を始めてください」
「あ、ごめん」
おおう。
最近の子は冷めてるな。
今、学生たちは猛烈なる感動に浸ってる場面のはずなんだけどな。
前に目を向けると、みんな白けた目であたしを見てる。
えっ、何この冷ややかな空気。
あたしの熱血が足りなかったか?
そんな冷ややかな空気の中、輝ける一区画。
春果君!
マイ・スピリットセイバーよ!
君だけだよ、そんなキラキラした視線を送ってくれるのは。
やっぱり君が一番可愛い。
君がいるといないとじゃ、その場の空気が違いすぎてね!
もうあたし君なしじゃ生きてけない!
「せんせーい」
「あ、ごめんね」
あたしは、ジーンとした視線を春果君から引き離して授業を始める。
ちっ、もうちょっと浸ってたかったのに、せっかちさんめ。
「じゃぁ、今日は前置詞ね。前置詞って何?いくつある?」
あたしは、地味に授業を始めた。
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ふぅ。
今日も無事に終わった。
講義ノートが着々とたまってく。
あたしの努力の歴史が積みあがってく。
こんな些細な事が自信に繋がってくんだ。
「Good bye, Sensei」
「See you, guys」
こう言った小さな会話だって、自然に学生たちと出来るようになってきた。
彼らがあたりに打ち解けて来てくれたってのもあるし、あたしが彼らに打ち解けて来たってのもある。
相互作用だな。
一ヶ月経って、お互い肩の力がちょっと抜けたんだろうな。
あたしはこの外見上日本で友達を作るのは時間がかかる。
ごく一般的な日本人と比較したら、やっぱりちょっと見た目が違うからね。
あたし自身は、この萌えるような新緑の瞳もスッとした鼻立ちも、白い肌も気に入ってるし、桑茶の巻き髪もいいと思ってる。
でも、好きじゃない人も大勢いるのも知ってる。
あたしの内面を見る前に、外面だけで拒絶される事だってない訳じゃない。
それは、この大学内にいてすらそう。
生粋の日本人として扱ってもらえない。
それが良い時もあるし(外人だからって許してもらえる)、悪い時だって(疎外感は半端ない)ある。
だから、こうやって学生たちとちょっとでも打ち解けて話せるの、嬉しいんだ。
彼らには色眼鏡はないからね。
若い子って良いね。
そんな若い子達は、今日も荷物を片付けて教室を出てく。
賑やかだった教室が、魂が抜けたようにまたしーんと静まり返る。
今日もありがとう、教室。
あたしも自分の荷物を片付けて教室を出ようとしていると、何の前触れ無なく突然、力強い指があたしの腕をぎゅっと握った。
「夏菜!」
「わ!」
ビックリして振り返ると、春果君が久々にあたしの近くに立ってた。
君、いつからそこにいたの?
気配がなかったから、急に出て来て本当に心臓飛び出るかと思ったよ。
春果君は、いつもと変わらないキューティーフェイスを少し綻ばせてあたしの目を真っ直ぐ見る。
何かいいことあったの?
「どうしたの、春果君。質問?」
あたしは、身体をくるりと回転させて春果君と向き合う。
春果君の指が、あたしの腕から離れた。
でも、彼の手のあったところは、いまだにジンジンとうずいている。
何、敏感になってんだ、あたし。
「今日、夕方時間ある?もしあるなら、空手部の練習見に来てよ。俺、夏菜をみんなに紹介したい」
「え、でも、あたし・・・」
「見に来るだけだから!俺、まだ夏菜を誘わないよ。ちゃんと納得してから入ってほしい。だって入ったら色々お世話になるのは俺たちな訳だし」