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ACT.3

予約し忘れて投稿されていないことに今気づきました。すいません。

 

「――大丈夫?」


 拓夜の身を案じる声と共に、赤髪の少女は彼と燕理の間へと割り込むようにして降り立つ。

 尤も、『助けてくれた』と拓夜が理解するのには数瞬の間が必要になったが。

 白いシャツの上から黒いカーディガン。そしてチェック柄のミニスカートという装いの少女は、拓夜の無事を確認すると前に向き直った。


「あ、ああ。アンタは?」

「自己紹介は後にしましょう? あまり待ってくれそうにもないから」


 再三飛来した炎球を、少女は手をかざしただけで弾いた。

 炎球が弾けて火の粉が辺りに飛び散るが、拓夜と少女の居る場所には飛んでこない。

 先ほど拓夜に迫っていた炎球もこれで弾いたのだろう。


「邪魔をしないで」

「残念だけど、見過ごすわけにはいかないのよ」

「なら、あなたも消す」


 炎球ではない。そんなものでは済まない炎の柱が、燕理の手のひらで生み出された。

 腕の動きに合わせて動く炎柱が、横に薙ぎ払われる。

 人間なら一瞬で溶けて蒸発してもおかしくは無い熱量。

 そんなモノを、燕理は汗一つかかずに扱っていた。

 だが炎の柱は拓夜と少女を焼く前に、見えない壁にぶつかって止められる。

 ――熱く、無い?

 数メートル先まで迫ってきた炎柱。熱の余波くらいはあってもいいはずだが、それが無かった。


念動力サイコキネシスの壁……」

「わざわざ答えてあげる必要は無いわ」


 目の前で少女達が応酬を繰り広げているが、拓夜はまだ混乱の真っ只中だ。

 なにせ道案内をしたと思えば謎の現象に襲われて、それがどうにかなったと思えば今度は炎に追われる始末。

 非日常で非常識で……なによりも有り得ない現象が連続して起きていることに頭がどうにかなりそうだ。

 それにさっき燕理という少女が言っていた言い分を信じるなら、逃げることも出来ない。

 ――確かに俺は平凡に飽き飽きしてはいたが、こんなもん望んじゃいないっての!

 目の前で展開されているのは命のやり取りだ。言動からして少なくとも燕理は殺しに来ている。

 かといって今の拓夜にどうにかする手段は無かった。

 ただ男子高校生が、目の前でやり取りされて居るような超能力を使えるわけが無い。


 また炎球が一つ、見えない壁に弾かれて散った。


 拓夜にとってはただ呆然と眺めるしかない戦闘が進展する。

 これ以上は撃っても無駄と判断したのか、燕理が赤髪の少女に向けて駆け出した。その手には、剣の形へと変えられた炎がある。

 もとより十メートル無かった距離を一瞬で詰めた燕理が、炎剣を振り下ろす。

 少女は手をかざしてそれを――止められなかった。


「えっ?」

「あぶねぇっ!」


 とっさに飛び出した拓夜が、少女を抱きすくめて横に飛ぶ。

 直後、不可視の防御をすり抜けた炎剣が地面を焼いた。炎の触れた地面が赤熱して、その熱量を物語る。

 拓夜はとっさながらも自分の体を下にして地面に落下して、押し出すように少女を立ち上がらせた。

 この少女がやられてしまうことがあれば、次は拓夜の番だ。抵抗する間も無く肉体を焼き尽くされるだろう。

 地面に擦って出来た擦り傷程度、命と比較するまでも無かった。

 拓夜は立ち上がりながら砂を払う。


「痛って……悪いな。いまアンタがやられると、俺は死ぬしかないんだ」

「あ、えと。ううん、助かった。感謝するわ」

「命助けられてっからな。お返しだ。尤も、このくらいしかできねぇよ。俺にアンタらみたいなよくわからん能力は無い」

「え? あなたの『パンドラ』を狙われたんじゃないの?」

「ぱんどら? なんだそれ」

「本当に知らないの……ッ!」


 拓夜の背後で、障壁に阻まれた炎球が散った。

 表情が引きつり、冷や汗がダラダラと流れる。


「ずいぶん余裕ね」

「やっぱり、話してる暇は無いみたいよ」

「俺は、どうすれば?」

「厳しいこと言うけど、さっき避けられたのは偶然だと思ったほうがいいわ。多分次は無い。命が大事なら彼女から目を離さないで」

「本当に厳しいな……了解」


 何歩か下がった拓夜を庇う様に少女が前に出る。

 拓夜はふがいないと思いつつ、迷惑になるよりはマシだとさらに下がった。


「いい加減、決める」


 改めて生み出した炎剣を持って、燕理が駆け出す。

 それを、少女は受け止めずにステップで避ける。

 普通のステップなら一メートル程度だろうが、三メートル近い距離を一歩で移動して見せた。ここにもあの能力を使っているらしい。

 炎剣は虚空だけを焼き、空振りに終わった。空振りで隙だらけの燕理に、少女が手をかざす。

 とたん、燕理の顔に苦痛の表情が浮かぶ。

 その手の中で炎剣が爆発し、小柄な体を自ら吹き飛ばした。


「自爆!?」

「違う。私のパンドラの効果範囲から離脱したの」


 自爆したのかと目を見張った拓夜に、少女は悔しさを滲ませながら答える。

 その証拠に、燕理は無傷で佇んでいた。


「あと一秒でもあれば、ちゃんとホールドできたんだけど……」

「まだ、終わってない」


 両手の上に炎球を生み出した燕理が、それを放り投げるように解き放つ。


「何度やっても無駄よ」


 それに対抗するように、少女も再び手をかざす。


「いま……!」


 直線で飛翔していた二つの炎球が軌道を変更。一度左右に分かれて、"左右からの挟み撃ち"。


「それが、どうしたのっ?」


 少女は両手を左右に突き出して待ち構える。

 だが、炎球はさらに軌道を変えた。


「俺かよっ!?」

「操者からの命令は、あなたの焼去」


 拓夜に迫る炎球。

 軌道を変えるとあらば、横に飛んでも走って逃げても時間稼ぎにすらならないだろう。

 少女の障壁は間に合わない。

 今度こそ死を覚悟して、それでもとっさに両手を前に突き出した。

 意味が無いとはわかっていても、本能に刻まれた反射は肉体を動かす。心の底からの拒絶と共に。

 炎球はその手に触れ――


 ――崩壊した。


 燕理も少女も、唖然として固まる。

 当人である拓夜は、


「熱っ――ぁぐっ……」


 これまでの連続したストレスの蓄積と精神疲労に火傷の痛みでトドメを刺されたのか、その場に倒れてしまった。

 いや、火傷ではぬるいか。彼の両手のひらは焼け爛れてしまっているのだから。

 だがいまは、"拓夜が死んでいない"ということが重要だった。

 あの炎球にめられた熱量は、人など用意に溶かせるほど。ただ扇いだ程度で消せる蝋燭ロウソクレベルの火とは文字通り格が違う。 

 ましてや燕理が意図的に消したわけではない。

 炎球は、"拓夜の手に触れた途端崩壊"した。

 結果、炎球が拓夜の肉体を焼失させることはなく、手のひらを焼け爛れさせたに留まった。


「対象の焼去を困難と判断」

「あっ、待ちなさい!!」


 先に我に帰った燕理が撤退を始める。

 それで我に返った少女だったが、一足遅かった。

 牽制として一発を少女に放ち、その場から藍童と同じように姿を消す。

 少女が虚空に伸ばした手は、何も掴むことなく空をきった。

 襲撃者が居なくなったからか、一帯に展開されていた結界が解ける。

 世界が現実に回帰する。喧騒も近づいてきた。陽も既に傾いている。


 ――その場には、少女と倒れた拓夜だけが残された。




 ◇




 最初に聞こえてきたのは、誰かの会話だった。

 まるで布団の中に居るような感じで、心地が良い。

 消毒液の刺激臭が鼻に引っかかる。

 ――消毒液? 俺は、生きてる?

 そのことを意識した途端、深いまどろみの海に沈んでいた意識は水面まで上昇した。

 閉じた瞼の向こう側から、光が見える。

 目を開けようとしたが、瞼が重い。何度か小さく目をしばたたかせて、ようやく目を開けた。

 まず、見覚えの無い青白い天井が目に入る。どうやらベッドの上に寝かされているらしい。

 布団の中のようで心地良いとは思っていたが、実質的に布団の中のようだ。

 まだぼやける目だけを動かして声のする方を見てみると、見覚えのある少女が居た。

 あの時はあまりにも混乱しすぎてそれどころではなかったが、改めて見るとかなり綺麗な少女に思える。

 正直なところ、一見で見惚れていた。

 拓夜はまだ朦朧もうろうとする頭で、しばらくの間、自分を助けてくれた赤髪の少女を見つめていた。

 しばらくして意識がハッキリしてくると、拓夜は声を絞り出す。


「……ここは?」

「起きた? ここはちょっと特別な場所よ。ただ、病院ではないわ」


 上体だけでも起こそうと体に力を入れると、少女に肩を抑えられた。

 いまの拓夜にはそれを押し切る力は出せず、再びベッドに沈む。


「まだ寝てなさい。酷く疲れているみたいだから。特に精神的にね」


 何か必要? という問いかけに拓夜が首を横に振ると、少女は分かったとでも言うように一つ頷くと携帯を取り出した。

 病院内だとすれば携帯は基本的にご法度だから、本当にここは病院ではないらしい。

 となると、起きる直前に聞こえた会話も電話だったのだろう。

 しばらくして会話を終えた少女が、改めて拓夜に向き直る。


「意識はちゃんとしてる?」

「ああ。もう問題ない」

「なら、簡単に自己紹介するわ。私は『虚宮こみや玲奈れな』」


 自分の名前を述べた少女――玲奈は、言葉にしないながら、ほらそっちもといった風に拓夜を急かす。


「オレは、拓夜。那星拓夜だ」


 拓夜も自らの名を述べると、玲奈は満足そうに頷いて見せた。

 ふと、拓夜は浮かんだ疑問を問いかけてみることにした。


「なぁ、何で俺は生きてるんだ? なにがあった?」

「憶えていないの?」

「ああ。火の玉が二つオレのトコに来た所までしか憶えてない」

「ショックとか……まぁいろいろ原因はありそうだけど記憶が飛んでるみたいね。結論を言っちゃうと、あなたが消したの」

「は?」

「まぁ、その辺りは後でいろいろ交えながら説明するわ」


 そう言った直後、彼女の背後にある扉がスライドして開いた。

 玲奈はそれに気付いて後ろを向く。

 拓夜も、寝たままで頭を動かして扉のほうを向いた。

 入ってきたのは、いかにも医者または研究者とでもいった風情の、白衣を羽織った女性だった。


残念ながらこれでストックは終了……もうちょっと書いてからにするべきだったと少し後悔してます。


とはいえ金曜の夜には次を出せるのでよろしくお願いいたします。

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