誇る
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祖父は、父へ一通の手紙をしたためた。
その手紙が、供の男に手渡される。
供。
夕日という立場を考えると、たった一人の男を供にしているのは、とても頼りなく感じられる。
モモやウメと縁のある男で、リクパッシェルイルという名らしい。
体術や剣術に、秀でている様子もない。
こんな二人旅で、魔法も使えない身でありながら、よくこれまで無事だったものだ。
「おじい様、そちらの方とはどんなご縁で?」
ハレの問いかけに、祖父はニヤっと笑いながら、リクのつるつるの頭を叩いた。
「同じ頭の縁だ」
人の悪い笑み。
言葉の裏側に隠した尻尾だけを見せて、ハレを釣ろうというのか。
髪のない頭。
たとえ、傍系のイデアメリトスであったとしても、こんな頭を望んでする者はいない。
この国において、髪とは非常に大きな意味があるのだから。
その大きな意味のある髪を、あえて捨てる。
太陽を憎んでいるか、この国のまつりごとに恨みがあるのだろうか。
だが、そうは見えない。
でなければ、こんな風に祖父と旅をするはずがない。
では。
「もしかして……」
ひとつの心当たりに、ハレはリクという男を見た。
その頭を。
「髪を伸ばせないのですか?」
言葉に──返答は、なかった。
だが。
答えないことこそ、まさしく答えているも同然で。
わずかな疑いが、確信へと色を変えた。
「そう……でしたか。前の世代でご縁があったのですね」
ハレは、胸が熱くなった。
彼は。
彼には──イデアメリトスの血が、混じっているのだ。
※
リクという男には、イデアメリトスの血が混じっている。
イデアメリトスといっても、人間だ。
都に住んでいるだけではなく、神官職につき神殿に住む者もいる。
そして。
どのような過程があったかは別として、結果的にイデアメリトス以外の相手と子を成したのだ。
何代前かは、分からない。
だが、この男には、色濃くイデアメリトスの血が出てしまったに違いない。
色濃く。
そう。
リクはきっと──魔法が使えるのだ。
成長の途中で、彼は自分の力に気づいたのだろう。
その後、リクはどうしたか。
見ての通りだ。
決して、魔法を使わないと決めたのである。
その誓いの証しが、その頭。
旅を続ける身であれば、すぐに髪は伸びるだろう。
それにも関わらず、これほど綺麗に剃りあげているのは、どんな状況であれ手入れをしているからなのだ。
ハレは、そこに美しい志を見た。
強い力を持っていてなお、己を律している素晴らしい男を見た。
祖父が、気に入るはずだ。
彼は、決して太陽を裏切らない。
何よりも、その頭が証拠だった。
「ついこないだまで、こいつは頭を隠していてな」
ぺんぺんと、石でも叩くように祖父は彼の頭を叩く。
リクは、黙ったままその仕打ちを受けていた。
「誇るべき頭だから、出せと言ってやったら……やっと観念したようだ」
本当に。
ハレは、本当にその通りだと思った。
「ええ……誇るべきです」
反逆するイデアメリトスがいる。
だが、決して裏切らない者もいる。
ハレには、それがとても頼もしく思えたのだった。