夕暮れの歌
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夕刻。
新しい町に入った時。
仕事を終えようとしていた人々が──コーを見た。
彼女の髪の色が、珍しいから。
ハレは、最初はそう思ったのだ。
だが。
だが、それは違うことがすぐに分かった。
「お前さんも、歌うのかい?」
中年の女性が、そんな風にコーに語りかけて来たのだ。
ああ。
それで、分かった。
この町に、トーが来たことがあったのだ、と。
彼は、いつも都にいるわけではない。
国中を旅し、時々都に戻ってくる生活を続けていたのだ。
珍しい白い髪。
それは。
歌う者の証しのように思われていたのか。
「歌……」
コーが、繰り返す。
その手が、桃の服を引っ張った。
「桃……歌っていい?」
問われて、彼女はちょっと困ったようだ。
ちらりと視線でハレを見る。
この旅は。
知るための旅だ。
良いものも悪いものも全部。
トーがこの町に来て歌ったというのならば、彼の歌の影響を知ろう。
ハレは──小さく頷いた。
「いいって」
モモが、コーの背中を押す。
彼女は、表情を輝かせ、その口を大きく開いた。
夕暮れの歌。
間もなく夜が来る。
今日一日の労働を褒め称え、明日に向かうための歌。
コーは、町の中心に向かって歩きながら歌う。
白い髪の、歌う少女を見て。
人々は、吸い寄せられるように彼女について歩くのだ。
広場についた時には既に──人だかりが出来ていた。