テルとハレ
∠
「ハレ、ちょっといいか?」
テルは、兄の部屋のノッカーを鳴らした。
双子の兄弟とは言え、小さい頃から部屋は別々だった。
それぞれに、派閥の違う取り巻きがいるものだから、昼間はなかなか自由に行き来が出来ない。
だが、夜は違う。
この時だけは、周囲のしがらみを抜け出し、二人は兄弟として語り合うことが出来たのだ。
そういう意味で、テルは夜が好きだった。
「いいよ、どうしたんだい?」
ハレは、父とよく似ている。
顔が、ではなく、話し方や性格が。
顔なら、自分の方がよほど似ていた。
というか、先祖代々の分かりやすいイデアメリトスの血を、テルはその容姿に受けついでいたからだ。
「リリューのところに、行ったんだって?」
ハレは、道場には通っていない。
剣術を学ぶ気には、なれなかったようだ。
だが、人を見る目は確かだ。
よりにもよって、あの道場でも抜きん出ているリリューを選んだのだから。
「ああ。私が旅を成功させるには、彼くらいの人間が必要だと思ったからね」
ハレは、適材適所をよく分かっている。
テルは、何でもかんでも自分でやりたがる。
だから、剣術を学ぼうと思ったのだ。
何かあった時に、自分の身を自分で守れないのは嫌だった。
「その旅のことなんだけど……もう一人、連れて行かないか?」
今日、ハレを訪ねた理由は、それ。
自分は、自分で何とか出来る。
テルは、それを信じて疑っていなかった。
だが、彼には人が必要だ。
その人材を、テルは抱えてきたのである。
「連れて行けるのは、二人だよ」
彼は、弟の申し出を苦笑で受け流そうとする。
「連れて行って欲しいのは……モモだ。リリューの従妹になる。女は、二人の数には入らない」
どんな側仕えの女よりも、彼女はハレの役に立つだろう。
しかし、彼はすぐには返答をしない。
ただ、テルを見るのだ。
何故、自分で連れていかない──瞳の中には、そんな疑問が渦巻いていた。




