表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/329

三人

「おのれ、半分め! 半分め! 泥棒女の息子め!」


 激痛にのたうちながら、女はわめき散らした。


 炎を、方向も定めず放ちまくる。


 エンチェルクは木陰へ退避していたし、すでにヤイクも林の中へと身を隠していた。


 その手の赤が消える瞬間を、エンチェルクは見逃さなかった。


 痛みで、自分が炎を放てなくなっていることさえ、すぐには気付けなかった女に、迂回した側面から襲いかかったのだ。


 落ちたのは。


 腕。


 片方の、腕。


「───!」


 もはや、女の絶叫は声にならなかった。


 もう片方の手で、己の髪を引きちぎるや、緑に燃え上がらせたかと思うと──宙空に舞い上がる。


 逃げる気だ。


 テルは、右手に巻いた髪に使う魔法を考えた。


 だが、確実に仕留められるものを、思いつくことは出来ない。


 使える魔法は。


 たった一度だけなのだ。


 深手は負わせたが、生き延びる可能性はあった。


 諦めかけた。


 その時。


 ヒュンッ!!!


 空を、一つの筋が切り裂いた。


 空を飛んで逃げる女の身に、その筋は突き立つのだ。


 一瞬。


 空で、それは動きを止め。


 そして林の奥深くへ──落ちた。


 あの筋がなんだったのか。


 テルが、はっと視線を地面に落とすと。


 まだ。


 まだ、その身も起こせない状態だというのに。


 朦朧としたままの。


 ビッテが。


 弓を構えていた。



 ※



「追わなくていい」


 落ちた女を追おうとするエンチェルクを、テルは止めた。


 とりあえず、最大の脅威が去ったことは間違いない。


 まずは、全員がそのことを確認し、しっかりと立て直すべきだった。


 まだビッテは、起き上がれないのだから。


「やれやれ」


 余分な仕事をしたとばかりに、ヤイクが林から出てくる。


 政治肌の男も、役に立つものだ。


 テルは、彼のことを見直した。


 今回の敵は、イデアメリトスで。


 既にビッテが落とされた状態まで含めて、ヤイクは計算したのだろう。


 一度しか使えないテルの魔法と、エンチェルクの剣術。


 そして、結論を出したのだ。


『負けるかもしれない』、と。


 負ける=旅の失敗=死。


 彼は彼なりに、それを回避しようとしたのである。


 そして、ビッテ。


 テルが彼に近づくと、場の眠りの魔法は失せていた。


 既に、女の魔法の効力は切れたのだろう。


 しかし、眠りの魔法を食らった事実は消えない。


 すぐには、目覚めないはずなのに。


「これの、おかげです」


 彼は、焦げた自分の衣服を見せる。


 わき腹の部分だった。


 女の放った場の雷が、彼の身をかすめたのである。


 その痛みと衝撃のおかげで、ビッテは強制的に覚醒した。


 素早く動けなかった彼は、ただ必死に弓を撃ったのだ。


 三人が、それぞれテルの手元に戻ってくる。


 その感触を確かめて、彼はようやく大きな吐息を一つこぼすことが出来た。


 それぞれが、それぞれでやるべきことをしっかりとやったのだ。


 ただの1人が欠けても、これほど素晴らしい結果は出せなかっただろう。


 イデアメリトス相手に、テルは魔法を使わずに、誰も失わずに勝ったのである。


「皆が俺の従者であったことを……本当に誇りに思う」


 愛しかった。


 彼ら全てが──愛しくてしょうがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ