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そうではなかった

 リリューは、少女を捕まえなければならなかった。


 相手は傍系とは言え、イデアメリトスだ。


 しかも、ハレよりも寛大ではない。


 そして。


 物凄い速さのフードの男が──オリフレアの前に立ちはだかったのだ。


 そのすんでで、リリューは少女を抑え込む。


「コー!」


 モモが、慌てて少女を引き取りにやってきた。


 いやいやとリリューの腕の中から逃れようとする彼女も、モモがやってくるとおとなしくなる。


 コーとは、モモがつけた少女の名前だ。


 彼女には、名前がなかった。


 皆の名前を覚えてしばらくして、少女もそれに気づいたのだろう。


 自分の胸を両手で触れ、首を傾げたのだ。


 自我が。


 彼女の中に、自我が芽生え始めていた。


 トーの名前をもじって、コーと。


 そう、モモが呼んだ。


 少女は、自分の胸に押し付けた手にぎゅっと力を込めて。


 嬉しそうに、「コー」と繰り返したのだった。


 そんなコーは。


「桃……オリフレアレックシズ」


 懇願するように、イデアメリトスの女性を指差すのだ。


 彼女はその上、リリューに出来ないことを簡単に成し遂げた。


 日本人にしか分からないだろう、モモの名を日本人の親と同じように呼ぶのだ。


 リリューも。


 母の名を、母の国の人にように呼びたくて、練習したことがあった。


 子供の頃の話だ。


 だが、モモにはそれが出来るのに、自分には出来ない。


 それは、母と同じ血が入っていないからだと──諦めた。


 そうではなかった。


 そうではなかったのだ。


「申し訳ありません……この子は、人の形を触って確かめたがるだけて、決して害するつもりはありませんので」


 モモは。


 まるで、コーの母親のように頭を下げた。


「随分大きな子供ね……毛色も違うし。どこで拾ったの?」


 フードの男の影のオリフレアの目が──ギラッと光った。


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