金
∞
白い髪の──女の子。
リリューが抱いて来た少女を見て、桃は驚いた。
どう見ても、トーと同じ血筋だと思えたからだ。
だが、髪は完全に白ではなかった。
左の髪の半分ほどは、黒く残っている。
それでも、これほど白い髪の若い人を、トー以外で見たのは初めてだった。
だが、身体はやせほそり、土気色をしている。
生きているかどうか、桃はとっさには分からないほどだった。
たとえ生きていたとしても、もはや長くはないだろう。
そんな少女を。
ハレが、慈愛深げに見るのだ。
そして。
「みな……私のわがままを、聞いてくれるだろうか」
穏やかな、しかし強いまなざしが向けられたのだ。
「私は、彼女を生かしたい。ここで……ただ一度の魔法を、使いたいと考えている」
桃は、一瞬言葉の意味が、よく分からなかった。
魔法。
成人の旅路では、神殿に着くまでは1度しか魔法を使ってはならない。
そのただ1度を、ハレは彼女を助けるために使うというのだ。
どこの誰とも分からない、この白い髪の少女のために。
「御心のままに」
一番、答えが早かったのは──リリュー。
連れてきた時点で、彼はこのことを予測していたのかもしれない。
「よく分かりませんが……殺し合いよりは生産的だと思います」
ホックスは、ホックスらしい返事を。
桃は。
ただ、こくこくと頷くしか出来なくて。
うまい言葉を探せない自分が、何だか恥ずかしかった。
「死の魔法はいらないな……既に、彼女はいまその状態だ」
ハレにしか分からない言葉が、彼の唇から洩れた後。
彼は、自分の長い髪を一本引き抜いた。
右手に巻きつけられる髪が。
金色に燃え上がった。
※
「ゆっくり飲んでね」
桃は、横たわる少女の口に、植物の茎をそっと近づけた。
この茎は、中が空洞になっているため、水分を通す管になるのだ。
そう教えてくれたのは、ハレだった。
目を開けた少女は、まだ何の力も取り戻してはいない。
かろうじて、ハレの魔法で命をつなぎとめているに過ぎないのだ。
桃は、塩と砂糖で水を作った。
伯母に、旅路で習ったのだ。
普通の水よりも、もっと早く身体にしみ込む命の水。
彼女は、病的に痩せていて。
ここ何日も、まともな食事をしていなかったに違いない。
おそらく、倒れた理由も栄養失調が大きく関わっているだろう。
人形のように力なく、しかし口に注がれる水を飲み込む。
桃は、同情深く彼女を見つめた。
自分とそう年の変わらない少女が、こんなところで一人で行き倒れているなんて。
だが、同時に薄々気づいてもいたのだ。
あの男たちは──この子を探していたのではないか、と。
一部を除いて、ほとんどが白い髪。
トーと、同じ髪。
彼と同じ血を引いているというのならば、月側の生まれということにならないか。
だが、そんなことを桃が口に出す必要はなかった。
聡明なハレや彼女の従兄が、そのことに気づいていないはずなどないのだから。
分かっていて、助けると決めたのだ。
この少女は、あの男たちから逃げていた。
要するに。
月側から逃げていたのだ。
どこへ行こうとしたのか、何をしようとしたのかは分からない。
しかし、そこにいられない理由があったのだろう。
桃は漠然と、この子をトーに会わせなければならない、と思った。
おそらく彼ならば、この少女を助けることが出来るだろう、と。
この子も……歌うのかしら。
桃は、少女を見つめたが──その唇は、ただ水を飲むだけだった。




