白
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「なにか、ですか?」
リリューは、そこを強調した。
人ではない、ということか。
気配が、ないわけではない。
ここは、林の中だ。
人間以外の動物が、いても当然である。
だが、人らしい気配は、どこにも感じられなかった。
「この先の地面の上に、何か横たわっている」
迷うことなく、ハレはまっすぐに林の奥を指す。
真っ暗な闇。
どれほどリリューが目をこらそうとも、闇以外の何も見えない。
松明を掲げたいが、雨が少し強くなってきたため、マントの陰から出すことはためらわれた。
「では、見てきましょう。その木陰でお待ちください」
リリューは、松明を桃に預けた。
彼女は雨宿りの木の下で、出来るだけ高く松明を掲げてくれる。
それでも、照らせる範囲など狭いものだ。
ぱたぱたとマントを叩く雨を受けながら、慎重にリリューは進んだ。
いつでもサダカネが抜けるよう、全身の神経を張り巡らせる。
次第に。
その闇の中に、何か白いものが落ちているのが見えてきた。
雨に打たれる、動物の白い毛皮かと思った。
更に近づくと、ようやく全貌が分かって来る。
人、だ。
倒れている、人。
リリューが、白い毛皮だと思ったものは──人の頭だった。
白い髪を散らせながら、うつぶせに倒れている姿。
かろうじて、息はあるようだ。
最初に思い浮かんだのは。
トー。
だが、彼ではなかった。
もっと細く、もっと小さい、もっと若い。
リリューは、一度松明の方を振り返った。
迷い、かけた。
連れて戻れば、トラブルの種になることは目に見えていたからだ。
だが、リリューはその身体を抱き上げていた。
母は。
自分を助ける時に──迷わなかったではないか。