何かいる
∞
夜の闇の中を、桃は歩く。
四人の中で、一番最後。
そこが、いつも彼女の歩く場所。
月は出ていない。
雲が、月や星を覆い隠しているのだ。
湿気の匂いが、微かに鼻をつく。
雨、降るのかな。
そんな、いやな予感が、桃の胸を掠める。
先頭のリリューの掲げる松明の灯りが、微かに揺らめいた。
冷たい一粒が、桃のおでこに当たる。
「降って来たな」
ハレが、夜空を見上げながら言った。
「大きな木を探しましょう」
松明が消えないように、自分のマントで保護しながら、リリューが街道の脇へと入って行く。
今日は、ついていない。
死体と遭遇するし、雨には降られるし。
おまけに。
『戦いなんて……野蛮で非生産的だ』
桃にとっては、胸に刺さる言葉だった。
いままで、彼女は道場を庭にして育ったため、そんなことを言われることも、考えることもなかった。
自分がやっていることが、野蛮で非生産的。
他の人には、そんな風に見られているのか、と。
とうさまも、そう思うかしら。
それが、桃の意識をチクチクとつついていた。
父も、ホックスと同じ貴族だ。
そして、母は剣術などしない。
そう考えると、だんだん桃は滅入ってきた。
都とは違う少し冷えた雨が、余計に彼女を落ち込ませるのかもしれない。
だが、のんびりと落ち込んではいられなかった。
「……何か、いるようだ」
その声に、彼女は緊張した。
だが、同時に不思議にも思った。
それを言ったのは、リリューではなく──ハレだったのだ。