四人
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レチの手を引いて家に帰ると、宴は楽しげに始まっていた。
武の賢者宅で開かれる宴にしては、余りに気さくなその光景を前に、リリューは母を探した。
父とは、共に都へ帰ってきたが、まだ母の顔を見ていなかったのだ。
「おかえり」
「おかえりなさい、リリュー兄さん」
顔見知りの門下生に、軽く挨拶を返しながら、彼はレチを引っ張ったまま、ようやく母の前に立つことが出来た。
ひとまわり、小さくなっただろうか。
こちらに目をやる、その表情や気配には何の違いも感じられないが、少し痩せた気がした。
「おかえり」
「ただいま、帰りました」
側にいたエンチェルクにも、軽く会釈を向けると、彼女も同じように返してくれた。
その視線が、ちらりとリリューの後ろに向けられる。
ああ。
そうだと、彼は母の方を向き直った。
「彼女と、結婚することにしました」
レチを横に引っ張り出すと、彼女はかがり火の灯りでも、明らかに分かるほど赤くなっていた。
「あ、あの……遠く北の生まれですが……よろしいでしょうか?」
突然のことに対応しきれず、レチは奇妙な言葉を並べていた。
おそらく、自分でも何を言っているのか分かっていないだろう。
母は、愉快そうに笑い声をあげる。
「私は、日本人だが……そんな母でもいいか?」
この国の人間でさえない母は、そんな風に彼女の心配を笑い飛ばすのだ。
「あ、いえ、そんなつもりでは」
「分かっているさ……レチが働き者なのも分かっている。よかったな、リリュー。お前が貧乏をしても、多分ついてきてくれるぞ……多分な」
息子の結婚話は、愉快でしょうがない事なのか。
その後、終始機嫌がいいようだった。
リリューは、今度は父の元へ行きレチとのことを話した。
父は、戸惑いながらも彼女を見た後。
「あー……よろしく頼む」
と、いつもからするとおかしいまでに落ちつかない声で、それだけ言うので精いっぱいだったようだ。