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「穀物の相場予測が、飛脚によってもたらされていますよ」


 相変わらず、ヤイクの舌はよく回る。


 エンチェルクは、それを黙って聞いていた。


 右から左に受け流せないのは、彼の語る内容は、自分にとっても必要な知識だったからだ。


 聞けば聞くほど、この男が街に繰り出し、自分の目と耳で情報収集をしていることが分かる。


 貴族が、だ。


 昔は、貴族の子息、だった。


 その間に、彼はウメに徹底的に、知識や物の見方を叩き込まれたのだ。


 彼女は、とても教えることがうまい人で。


 あのひねくれた貴族の子息を、うまく使った。


 だが、そんなウメに育てられた男は、そんなウメが使った人の扱い方さえ、綺麗に習得したのである。


 だから、彼は貴族らしくありながら、まったく貴族らしくなかった。


 貴族としての、自尊心はある。


 だが、自尊心のために、知識や情報をふいにすることはない。


 都の民衆の意識を、一番よく知っている貴族は、おそらくヤイクだろう。


「情報が早く回るようになったおかげで、次の収穫期の収穫量の予測が、商人の耳に早く入るようになってきました」


 商人は、少しでも安く仕入れるために、より豊作の地域に買い付けを指示するのだ。


 ウメは、いつだったか、これについて──飛脚より早い伝達方法もあると言っていた。


 商業が成熟していて、もっと速度が求められるようになれば、おのずとその方法も見出されるだろう。


 知っていながらも、ウメは全てをこの国に教える気はないようだ。


『物事には、期が熟した方がいいこともあります』


 市民が必要だと感じれば感じるほど、工夫が生まれ、新しい技術は自然に生まれるのだと。


 彼女には、それを待つ気の長さも持ち合わせていたのだ。


 ただ。


 そんなウメの能力を継ぐヤイクには。


「もっと早く情報が入るようになれば、商人の儲けは大きくなると思いませんか?」


 次期、太陽になるかもしれない人間に話しかけるヤイクには──確固たる志がなかった。


 それが。


 エンチェルクが、彼を嫌う理由だった。


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