永遠
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たくさんの屍を乗り越えて、ハレは『そこ』へ向かおうとしていた。
前を歩くのはトー。
横を歩くのはコー。
もはや、敵はほぼ壊滅状態で、兵士たちが残党狩りをしている。
テルが派手に燃やしたらしく、あちこちの火はまだ消えきれておらず、熱といやな匂いに包まれていた。
トーの行き先は、洞窟だった。
火口の壁に、横穴が開いているのだ。
その洞窟の入口には、本当に多くの人間が倒れていた。
必死で守ろうとしたのだろう。
入口で、コーが音を落とす。
中に、人がいるかどうか確認したのだろう。
「何人か……いるみたい」
その言葉に、ハレは髪を両手に巻いた。
洞窟へ歩み入る。
さっきまでの壮絶な景色が嘘のように、中は冷ややかだった。
自分自身の持つ強い光は、暗がりでは良い灯りとなる。
わざわざ火をともす必要はない。
そんな洞窟を、慎重に歩く。
ゆるやかな曲線を描く道筋の奥に、その光はあった。
遠くからでも、はっきりと分かる光が中央に座っている。
知っている光だった。
「やっと来たな、ハレ」
テルだ。
自分の光と、とてもよく似ているそれは、兄弟の証。
少し高くなっているところがあるようで、腰掛けて自分たちを待っていたのか。
「『場』とやらを探していたんだが、ここで行き止まりだ」
テルの両側に、男が二人。
ビッテとリリューだ。
「トーなら知ってるんだろう? どこに『場』とやらがあるか」
事情を知る者に、ハレは声を投げる。
トーは。
簡潔に、こう言った。
「尻の下だ」
テルが座っている場所の、下だと。
「おっと、それは失礼したな」
全く悪びれもせず、弟はそこから立ち上がったのだった。
※
それは、まるで棺のようだった。
石で作られた直方体。
だが、一番の特徴は、洞窟に置かれているわけではない、こと。
床の石と、完全につながっているのだ。
最初から、この形を作るために掘られているのだ。
まるで。
ハレは、思った。
まるで、イデアメリトスの玉座のようだ、と。
宮殿にある玉座も、床の石とひとつになっている。
まったく違う歴史を持つはずの太陽と月の、ささやかな共通点。
トーが、ゆっくりと石の蓋をずらす。
中は、不思議なものだった。
いろいろな原石の結晶が、内側に向かって飛びだしているのだ。
それらが、暗がりでも小さくキラキラと光っている。
まるで、夜空をまたたく星のように。
「寝心地が悪そうだな」
テルの苦笑混じりの感想が、それだった。
下手に飛びこむと、結晶を壊すか自分の身を傷つけてしまいそうだ。
「さて……」
弟は、場の中とハレたちを交互に見まわす。
来たなと思った。
テルは、この国を愛している。
それは、責任のある立場として、という意味で。
そのため、決してトーたちの魔法の力を甘く見てはいない。
ハレも、自分の一生の約束は出来たとしても、100年先の約束は出来はしないのだ。
「ハレ……お前は、俺と父母とイデアメリトスを永遠に裏切らないか?」
テルは、不思議な質問をした。
『永遠に』
異様な言葉だったのだ。
永遠などという時間は、この世にはない。
少なくとも、ハレの寿命が普通の人間と大差があるわけではないのだ。
だが、この父娘は違う。
トーが、いま本当は何歳なのか、誰も知らない。
無茶な魔法の使い方をしない限り、彼らの老いはとても遅いのだから。
テルの真意は計りかねるが、彼らのその長寿を気にしての『永遠』という言葉のように感じたのだった。




