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這う

 火口


 大昔、火山であった山の火口が、月の一族の集落だった。


 山肌には長い年月をかけて育ったであろう木々が深い森を形成していて、狩りをする者くらいしか立ち入ることはないだろう。


 確かに。


 そこならば、都の目も力も届きはしない。


 ハレは、山を見上げた。


 ここからは、荷馬車は入れない。


 まともな道がないからだ。


「さて……」


 同じく荷馬車から下りたテルが、トーを見る。


「俺が、この木々を見晴らしよくへし折って道を作るのと、詳しい者が先導して案内するのはどちらがいいか?」


 テルにしてみれば、どちらでもよいのだということが、言葉からはっきりと伝わってくる。


 どちらを選ぼうとも、労力には大して差がないのだと。


 もはや、テルとハレには魔法の制限はない。


「……道は、変わっているだろう」


 トーは、山を見る。


 町の場所を動かすことは出来ずとも、そこに至る道程は変える。


 そういう用心深さがあったからこそ、これまでこの場所は他人に知られることはなかったのだ。


「ふむ……ではへし折るか……」


 テルは、力強く納得した。


 トーの言葉を頭から信用したというよりも、案内を断られることにより信頼性を上げたという雰囲気だ。


 トーは、故郷を出奔してから、一度も帰っていないという。


 そんな者の案内など、本当はテルは必要とはしていないのだ。


「コーが見つけます!」


 なのに。


 娘が、ハイっと手を挙げた。


「見つける? 道をか?」


 怪訝なテルの言葉も横目に、コーは口笛のような音を小さく吹き出した。


 音は、重さがあるように足元に落ちてゆく。


 音が、這う。


 地面を触れるように這いずっていく音が、ハレには見えるようだった。


 歌だけでなく、音の全てが彼女の味方になってゆく。


 あのトーが、少し誇らしげな顔をしているように見えた。


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