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ムチとアメ

 オリフレアという異物を除けば、テルたちは順調に歩みを進めていた。


 都から離れてゆくごとに、街道の人気は少なくなってくる。


 それでも飛脚の荷馬車とは、よくすれ違った。


 まだ、各町間のやり取りが活発なのだ。


 その飛脚が通る度に、ヤイクとエンチェルクは必ず目で追う。


 信条が真反対の二人だが、その点だけは共通していた。


「最近は、女性の間で風俗本が人気なんですよ……ご存知でした?」


 ヤイクは、旅の間の暇つぶしに、いろいろなことをテルに語る。


 だが、それらは堅苦しい政治の話ではない。


 テルが知ることの少ない、俗っぽい話が多い。


「都で流行っている髪型や衣装などの薄い本に、各町のご婦人方が群がっているんです」


 元々は、飛脚問屋を請け負う布問屋が仕掛けたという。


 新しい衣装を欲しいと思わせ、布の売上を上げるためだ。


 そして、その効果は着実に上がっていた。


 家の仕事ではなく、雇われて働く人間が次第に増えつつあった。


 新しい職業が、増え始めているおかげだ。


 雇われた人間には給金が払われ、彼らはそのお金で生活し、好きなものを買うことが出来るのである。


「神官たちも、本の重要性が分かってきたようで、各町の寺子屋にイデアメリトスの物語を寄贈したりしてますよ」


 ニヤっと笑うヤイクの声には、微かな毒。


 イデアメリトスの血を引く本人の目の前で、こんなことを言うのだから、彼らしい。


「飛脚も寺子屋も、ウメの発案だろう?」


 だから、テルも笑いながら毒を返す。


「彼女のやり方が、全て良かったわけではありませんよ。後から法整備など、整えなければならなかった部分も多いのですから」


 ヤイクは。


 視線をちらとエンチェルクに向けながら、さらりとウメの手柄を汚しにかかる。


 ぴくりと、一瞬だけエンチェルクの眉が反応した。


 それに、ヤイクはあらぬ方へと視線をそらす。


 ウメをけなせば、彼女が怒ると分かっているのにやるのだ。


「けれど……いずれの機能も、この国の発展のために寄与していることは、確かですがね」


 ムチの後には、アメを。


 ヤイクも、鬼ではなかったようだ。



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