魂のかけら
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エンチェルクが到着する頃には、既に廃墟と化した道場に、門下生が集まっていた。
軍令府組のほとんどは都から消えていたので、それ以外の人たちだ。
「おはようございます」
声をかけると、みなぴしっと背筋を正して挨拶を返す。
もはや、それは身体にしみついた反射行動と言ってもいいだろう。
みな、あのキクの弟子たちなのだ。
物珍しさから入門した者もいる。
兵士の友人から誘われて入った者もいる。
子どもの頃から、親と共に通っている者もいる。
挨拶を交わしたら、みな少し落ち着いたのだろう。
まだ燻ぶる煙をものともせず、瓦礫を漁り始めた。
そんな門下生たちを見ていたエンチェルクの元に、鍛冶屋のウーゾが近付いてきた。
「最近、金属の燃えカスみたいな匂いのするチビが、熱職人通りをチョロチョロしてたんです。珍しい匂いなんで鼻に残ってたんですが……ここも同じ匂いがしやがります」
関係があるのかどうか、彼は問うているのだ。
おそらく、それはユッカスの子どもだろう。
「今後、その子を見かけても……放っておいて下さい」
エンチェルクは、ウーゾを心配した。
彼は、この国で現時点では、ほぼ唯一の日本刀の刀鍛冶だ。
そんな彼に、もしものことがあってはならない。
ウーゾは、顔を顰めた。
了承しかねたのは、よく分かった。
愛する道場を、こんな風にした者を、彼は許しがたいと思っているのだろう。
「近いうちに、必ずキク先生と私たちが片をつけます」
彼らに一番効く名前──それが、『キク先生』
「……先生が出られるのなら……出しゃばりません、分かりました」
この道場の持ち主でもあり師でもあるキクが、直々に出るのであれば、横やりを入れるのは余計なことなのだ。
そんな二人の会話は、門下生の声に遮られた。
「あったぞー!」
瓦礫の上から、一人が「それ」を高々と掲げる。
折れてもおらず燃えてもいない、それは彼らの練習用の木剣。
ほんの数本であったが、無傷のものがあったのだ。
その時だけは、瓦礫を前にしてなお、みな笑顔になった。
やはり、彼らはキクの魂のかけらを受け継ぐ弟子たちなのだ。