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16と18

 二日目。


 テルは、順当に隣領へとたどり着いた。


 領主に一言挨拶をして通過するつもりだったのだが、そこには先客がいた。


 オリフレアだ。


 父の従妹である彼女もまた、一週間もしないうちに旅立つはずである。


 一度都に入って、それからの出発になるため、準備期間の今、こんなところでテルを冷やかしている場合ではないというのに。


「ふぅん」


 獣の目を隠すこともせず、オリフレアは彼と彼の従者たちを見た。


 冷やかしというよりは、敵情視察というところか。


「これはこれは、日向花の君」


 そんな少女に、一瞬もひるむことのない男がいた。


 ヤイクだ。


 彼女の母の二つ名で、恭しく語りかける。


 瞬間、オリフレアの眉が跳ね上がった。


「その名で呼ぶのは許さないわ!」


 瞳に輝いているのは、明らかなる怒り。


「今や、名をお継ぎになってもよろしいのではありませんか?」


 しかし、ヤイクはそんな怒りなど右から左。


 都で、政敵だらけでも平然としている男にとって、オリフレアの野性的な怒りなど、風のようなものなのか。


「あんな女」


 ヤイクは、間違いなくオリフレアの尾を踏みつけたのだ。


 刃のようにギラギラと輝いていく目を、彼女は決して隠さない。


「あんな女……死んでせいせいしたわ!」


 自分の母親──しかも、イデアメリトスの髪を残した女性を指して、オリフレアは容赦なく吠えた。


 父の叔母は、髪を切らねばならなかった。


 ソレイクル16。


 それが、彼女の肩書。


 16とついたからには、16代目のイデアメリトスが髪を切る時に、それに殉じなければならない。


 テルの祖父と共に、彼女は髪を切った。


 祖父は生きた。


 彼女は──そうではなかった。



 ※



 オリフレアリックシズ・イデアメリトス・エッゼルト18。


 テルは、彼女の名を思い浮かべた。


 傍系の番号は、生まれた当時の直系の番号に合わせられる。


 だから、オリフレアの母は16だか、彼女自身は18を手に入れることが出来た。


 これは、幸運だった。


 何故なら、彼女はテルとハレが誕生して一週間ほどして生まれたからだ。


 もし、1日でも先にオリフレアが先に生まれていたら。


 彼女の番号は17となり、いくら年の差があろうと父に殉じなければならなかったのである。


 だが、オリフレアは自分の母をひどく嫌っている。


 ここまでとは、テルも思ってはいなかったが。


 心当たりが、ないわけではない。


 ひとつは、父親のこと。


 ひとつは、母親自身のこと。


 父親は、便宜上、イデアメリトスの傍系の血筋の男ということになっている。


 便宜上、というのは──それは父のはからいだからだ。


 何故ならば。


 片親が明らかにならない状態で、その子をイデアメリトスの旅に出すことは出来ないから。


 父親は、身分と魔法の力のない者だと聞いている。


 だが、その娘はイデアメリトスの力を受け継いでいた。


 彼女を、イデアメリトスとして登録するには、父親が必要だったのだ。


 髪を切って、ただの血筋として生きることは出来たのだが、オリフレアは登録された。


 そんな彼女の母親は。


 非常に豪傑だった。


 子供の頃、テルは勿論会ったことはある。


 その力強い、そして逆から見れば自分勝手な言葉や振る舞いは、幼いオリフレアを傷つけることも多かったのだろう。


 旅が好きな人で。


 ちょくちょく、オリフレアを置いて世界中を旅していたらしい。


 そして、彼女は母を嫌った。


 亡くなって──今もなお。

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