味方の増やし方
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キクの部屋は、4人の女性と2人の男がいるため狭く感じる。
女性は、キク、ウメ、ロジア、エンチェルク。
男性は、ヤイクと──ジロウだ。
言葉もしゃべれぬ赤子は、ロジアの髪をよだれでべとべとにしながらも、会合に参加していた。
「殿下たちが討伐に出ている間、都の守りが重要になる」
この会合を手配した男は、軍令府の人間にではなく、女たちにこんなことを言い出す。
いや、軍令府にはこんなことをいちいち言う必要はないだろう。
危険に対処する、最前線の役所なのだから。
しかし、そんな彼らでも、敵勢力に関して全てを把握しているわけではない。
月の一族、そして──異国人の勢力。
「その守りにおいて問題なのが…うちの叔父上だ」
ちらりとロジアを見たのは、前に天の賢者が彼女にちょっかいをかけようとしたことを思い出したのか。
「もしかしたら、ウメのところには無茶なことをするかもしれんからな」
異国人の勢力に関して言えば、ウメのところにはエサがある。
テテラだ。
そのため、都にはイーザスが潜伏しているのだ。
そんな彼女を、天の賢者はおさえようと言うのか。
潜伏している男を、あぶりだすために。
「外に出る際は、常に私の娘がついています」
ウメは、そんなヤイクの心配には同調しなかった。
何も知らずについているのではなく、モモは分かっているとでも言いたげに。
「引き続きそうしてくれ…殿下のいない間に、叔父上が何をやらかすか、私にも分からないのだよ」
異国人の存在そのものが、天の賢者にはお気に召さないようだ。
ヤイクが手を焼いている様子は、珍しく見えた。
そんな男に。
「もし…万が一のことがあったら」
ウメが。
薄く微笑む。
「その時は…あなたが男を見せればいいことです」
微笑みの裏側から飛び出す、厳しい針。
その針の先を見るのは慣れているかのように、ヤイクはやれやれと肩をそびやかした。
※
「イーザスは…難しい人間でしてよ」
ロジアは、都にいる同胞の話を、こんな風に切り出した。
いま、天の賢者が狙っている異国人が、彼だ。
自制心が無く、躁鬱も激しい。
人に従うのを嫌うし、同胞だからって手加減はない。
首ねっこを押さえているユッカスだけに、面従腹背が精いっぱいだという。
ただ、祖国愛もないことが救いだとロジアは言う。
「あの男には…テテラフーイースルさえいればいいのです」
いま、そのテテラの義足が作られていると聞いて、彼女は一瞬驚いた後、納得した表情になった。
「ああ、そうでしたわ…この国では、女性も助けられるべきですものね」
言葉に薄く染み出る皮肉という毒は、ロジアの祖国に向いているのか。
エンチェルクは、少しずつ彼女の国の話を聞いてきた。
ジロウを挟んで、長い時間を共有してきたおかげだろう。
常にどこかで戦いが起き、境界線の引き直しが忙しい大陸。
ほとんどの女性は、強い男の所有物に過ぎない国。
そんな国であっても、いや、そうであるからこそ、さまざまな技術の向上が起こる。
より多くの人間を、効率よく沈黙させるための爆弾。
海戦を制するための船。
腕が落ちようが足がもげようが、その後も戦えるようにするための義手や義足の技術。
そんな爆弾の技術を専有している国が、ロジアの祖国。
ユッカスは、爆弾伯爵と呼ばれる貴族の子だという。
強い男は何十人もの女性を抱え込んで、次々と一族が増やされる。
貴族=強い男という構図の成り立つ国で、貴族の子と言ったとしても、その子の地位はピンキリだ。
ただ、少なくともユッカスは、その技術を幼少ながらに手に入れており、この国の子ども部隊の総責任者となった。
「ユッカスを止めるなら、早くした方がよろしくてよ」
ロジアでさえ、何処にいるのか分からない相手を捕まえて、無茶なことをいう。
「ユッカスは、爆弾を増やしているだけじゃないわ…自分の手駒も増やそうとしていてよ…祖国と同じやり方で」
ざわ、とエンチェルクの首筋に冷たいものが走った。
一体。
何人のこの国の女性が。
かの男の子を産んだというのか。