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無職

「我が息子ながら、呑気なものだ」


 昼。


 授乳のために帰って来たキクは、からからと笑う。


 リリューの話が、本当におかしくてたまらなかったようにエンチェルクに話すのだ。


「あいつは、今になって初めて自分が無職だと気づいたんだぞ?」


 食いっぱぐれのない生活を、させすぎたか?


 彼女の笑いとは裏腹に、エンチェルクは確かにそうだと真面目に思い巡らせた。


 普通、リリューくらいの年の男であれば、食べて行くために働いているものだ。


 ただ、漠然とキクの跡を継ぐだろうと思っていたので、無職であることを不思議に思わなかっただけ。


「余計なところで、私に似てしまったな」


 ジロウに乳をやりながら、しかし、彼女の声にはまったく心配する気配などない。


 こんな母だから、息子も仕事のことを頭に思い浮かべもしなかったのだろう。


 働こうと思うのならば、リリューにはいくつか道がある。


 太陽の子らの覚えめでたい彼ならば、良い職をもらうことも可能だ。


「でも、あの坊やには欠点があってよ」


 ロジアの言葉は、軽い毒の中に浸かっていた。


「あの坊やは……真面目すぎるわ」


 昼の熱を追いやるように、彼女はジロウに向けて扇をゆるりと振る。


 そうだ。


 そこが、ネックなのだ。


 キクがもし働きたいと思えば、好き勝手放題やった挙句に、自分に合った仕事を見つけてくるだろう。


 しかし、リリューは違う。


 父の七光と思われることはしたくないだろうし、宮殿が持っている陰湿な影の部分に身を投じるのは大変だろう。


 真面目に、一人で黙々と鍛錬するリリューは、それそのものは美徳ではあるのだが、余りに現実離れしている。


 そんな男が、無職であることを自覚した。


 職がないと食べていけない。


 それは、この家からの独立を考え始めたということでもあるのだろう。


「女が出来ると、変わるものだな」


 満腹になった息子を、腕を伸ばしてきたロジアに渡しながら、キクは低く笑った。


 真面目な息子の悩みは、彼女にとっては笑いの種でしかないのだろうか。


 げふっ。


 ロジアに背中をとんとんされ、ジロウが盛大なげっぷを披露してくれた。



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